ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Lorrie Moore の “A Gate at the Stairs”(2)

 例によってダラダラと読んでしまったが、感想は途中の経過報告や昨日のレビューでほぼ書きつくしたので、今日は小説としての評価を簡単に述べておこう。というのも、周知のとおり、本書は発表が近づいてきたオレンジ賞のショートリストにノミネートされているからだ。
 これで最終候補作を読んだのはたったの2冊目。それなのに予想を述べるのは文字どおり独断と偏見にほかならないが、読後の今も読む前と意見は変わらず、これはやはり今年のオレンジ賞の大本命のような気がする。
 率直に言って、同じくノミネートされている去年のブッカー賞受賞作、Hilary Mantel の "Wolf Hall" のほうが面白いし出来ばえもいい。ただ、去年もそうだったが、このオレンジ賞はどうも、ほかのもっと有名な賞に選ばれなかった優秀作品をはじめ、話題作の落ち穂拾い的な性格を有しているようだ。そういう「救済措置」の対象となっているのが女流作家だけというのは一種の逆差別で、男性作家にしか与えられない文学賞があってもよさそうなものだが、まあ話題にならないでしょうな。
 レビューにも書いたとおり、本書は「強烈な物語によるドライブ感覚」を味わえる作品ではなく、その意味で "Wolf Hall" のような華々しさはない。けれども、「コミカルな語り口に哀感がこめられた悲喜劇調」で若い娘の成長をじっくり描いていく本書のような作品を去年のベストフィクションのひとつに選んだニューヨーク・タイムズ紙は、さすがお目が高い。米アマゾンでも年間最優秀作品にリストアップされているということで話題性は十分。当たるも八卦当たらぬも八卦、大いに期待しましょう。