ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Joseph O'Neill の "Netherland"(1)

 年末年始はCDとDVDで自堕落な生活を送ってしまったが、4日から仕事が気になり、「自宅残業」をボチボチ開始。その合間に Joseph O'Neill の "Netherland" を何とか読みおえた。

Netherland: A Novel

Netherland: A Novel

[☆☆☆★★] タイトルが単数形で "Netherland" となっているのは、オランダではなく、「低地」という意味だろうか。妻と別居して精神的危機におちいり、いわば「心の低地」に落ちこんだ男の回想につぐ回想。主な舞台は9.11テロ事件前後のニューヨークで、少年時代を過ごしたオランダや、現在の居住地ロンドンなどのエピソードも混じる。回想のきっかけは、泥沼時代に知りあった友人の訃報で、この友人との交流が最大の読みどころ。友人はクリケットクラブの会長を自称、クリケット専用のスタジアムを建設し、アメリカ全土にクリケットを広めようという夢をいだいている。その影響で主人公もクリケットに夢中になったり、定石どおり女と関係したり、とにかく精神的にどん底にいる人間の心情がひしひしと伝わってくる。と同時に、女手ひとつで自分を育ててくれた母親や、別居中に男を作ったころの妻など、回想の対象は連鎖反応のように移り変わり、次第に主人公の人生が浮かびあがる。その思い出に心の傷が重なっている。主人公が危機を脱した経緯はあっけないが、それがむしろ現実というものだろう。英語は知的な文体で、難易度はやや高い。

 …オランダは the Netherlands で、こちらは "Netherland"。「心の低地の彷徨記」といった内容で、去年の秋から絶不調のぼくは、本書を読みながらあれこれ考え、大いに身につまされた。