ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

William P. Young の "The Shack"(2)

 つい最近まで知らなかったのだが、昨年6月22日の日記 http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080622 で、「べつに大した小説ではない。キリスト教関係を除けば、日本の出版社が飛びつく可能性も少ないものと思われる」と書いた William P. Young の "The Shack" が、ヒーリング系の書籍が専門?の版元から『神の小屋』と題して刊行されている。
 ぼくの予想なんぞ、まるっきり当てにならない好見本だが、日本での売れ行きはどうなんだろう。米アマゾンでは相変わらずベストセラーだし、アマゾンUKでも、評価は星3つ半とあまり高くないもののベストセラー。

The Shack

The Shack

 ぼくが上のように予想したのは、「中盤の宗教的、神学的な話が日本の読者にはなじみが薄い」と思ったからだが、ヒーリングにキリスト教がからむのは英米では当然のことで、「神を信じ、神を愛し、神と共に生きることが大前提」の「愛と救済の物語」があちらでもてはやされるのは大いに理解できる。
 ただ、"The Shack" の場合、「善なる神がなぜこの世に悪の存在を許すのか、という弁神論」が採りあげられ、しかもそれが「ロジカルなものではな」く、かなり情緒的なアプローチである。そんな小説がベストセラーになるとは、それだけ今のアメリカやイギリスに「いろいろな面で閉塞感があ」り、「その閉塞感ゆえ、こういう単純な救済の物語が熱心に読まれているのだろうか」。それとも、両国が昔から「宗教国家であり続け、今日でも国民の間にキリスト教が根強く浸透しているということなのか」。
 もちろん、序盤の展開は「サスペンスがあって非常に面白い」し、「娘を失った悲しみから立ち直る姿を描いた終幕はなかなか感動的で、宗教に関係なく、ほろりとさせられる」。そういう点が大好評の理由なのかもしれないが、それにしても、「神の愛にもとづく魂の救済は本書の根幹をなすものであり、それを無視して評価することはできない」。
 …去年の日記から大幅に引用してしまったが、もし『神の小屋』が現在ベストセラーになっているのだとしたら、それは一体どういうことなんだろう。キリスト教文化圏ではない日本で「情緒的な弁神論」の本が売れることの意味が、ぼくには見当もつかない。
 むろん、キリスト教に限らず、「神仏に頼らない魂の救済なんぞあるのだろうか」という問題はある。今の日本人はさほどに宗教を、「魂の救済」を求めているのだろうか。いやいや、そんなこととは関係なく、「ほろりとさせられる」物語であるがゆえに売れるのか。「べつに大した小説ではない」んだけど。
 …あれこれ考えると、日本のアマゾンにおける売れ行きが実際どうなのか、ぼくは何だか気味が悪くてまだ検索しないでいる。