ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jojo Moyes の “Me Before You” (2)

 今アマゾンUKを見ると、本書はフィクション部門のベストセラー第6位。レビュー数424で星5つと、大変な評判になっている。ぼくの評価は☆☆☆★★で、ちと辛く思えるかもしれないが、昨日のレビューから想像できるように、じつは相当おもしろかった。「ついページをめくってしまう」というコメントに嘘偽りはありません。
 「よく出来たヒーリング小説」というのも本当で、その最たる理由は、これがただ単に心を癒される物語ではなく、「障害者の絶望…と健常者はどう向き合えばいいのか」という厄介な問題を提示しながら読者を癒しへと導いているからだ。その結末にぼく自身はやや不満なので★を一つ削ってしまったが、いやこのままでいい、と思う人がいても不思議ではない。ネタを明かすわけにはいかないので、「それが最後の読みどころだ」とぼかした終幕がやっぱり最大の山場です。
 ルーとウィルが、ウィルの元カノの結婚式に出席するくだりもいいですね。山あり谷あり、ほんとにいろんなエピソードが盛りこまれているが、一日たった今でも、あそこだけは鮮明によみがえってくる。というわけで、魅力的なタイトルとカバー絵から判断した今回の「見てくれ買い」、大当たりでした。
 なお、上と似たような問題を採りあげた作品で、本書以上に泣けるのが Karen Kingsbury の "Summer" なので、昔のレビューを再録しておこう。(点数は今日つけました)。

Summer (Sunrise)

Summer (Sunrise)

[☆☆☆☆] 最大の喜びは最大の悲しみの中にある…読了後、ふと思いついた言葉だ。インディアナ州ブルーミントンの街を舞台に、信仰厚いバクスター家の人々が試練を乗り越えて生きる愛と救済の物語。シリーズ化されている作品の一つだが、何の予備知識がなくても充分楽しめる。そして最後には定石どおりとわかっていても大きな感動が待っている。ハリウッドスターの息子が新婚早々、パパラッチに悩まされ、新婦とのあいだが険悪になったり、新婦の属していた児童劇団が解散の憂き目にあったり、ビバリーヒルズ高校白書を思わせる若者の恋愛や妊娠の話が出てきたり、何やら類型的な小説のようだが、それぞれ山場や泣かせどころがあって目が離せない。一家の主人をはじめ、兄弟姉妹やその子供たち、友人など、数多くの人物を登場させて見事にさばく老練な筆致が光る。随所にさりげなく昔の試練が紹介されており、バクスター家の物語を最初から読んでいるファンへのサービスも怠りない。が、本書で何より感動的なのは、生まれてくる赤ん坊が無頭蓋症と診断されながら、奇跡を信じて出産に踏み切った娘夫婦の話である。神はなぜ、必ず死ぬとわかっている赤ん坊を授けたのか。救いはないのか。最後はとにかく涙なしには読めない。その根幹をなしているのは本質的には信仰だが、「最大の喜びは最大の悲しみの中にある」ことを思うと、信者でなくても深く心を揺り動かされずにはいられない。なお英語は標準的で読みやすい。