ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"2666" Part 1 雑感(1)

 覚悟を決めて Roberto Bolano の "2666" を読みはじめた。なにしろ900ページを超える大作である。ボケ、多忙、その他の事情で、もっぱら電車の中でしか読書に時間が割けない今、はたしていつ読みおわることかと心配だが、ぼくが手にとったのは3分冊のペイパーバック版。これなら長編を3冊読むつもりでいればいい、と腹をくくった。
 ロベルト・ボラーニョの作品にふれるのは、"The Savage Detectives" に続いて2作目。http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080405 ぼくは知らない作家の本が大好きなので、原則として1年以内に同じ作家のものは読まないことにしているが、これは仕方がない。去年一番の話題作だし、その評判から判断して、今年の全米書評家(批評家)協会賞を受賞するのはまず間違いないだろう。http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20090205
 "The Savage Detectives" は去年読んだ本の中でマイベスト1だが、http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20090117 その感想にぼくは、「ガルシア・マルケスなどのマジック・リアリズムの洗礼を受けた者として見ると、最初は、これが本当にラテアメ文学かと驚くほど普通の小説だ」と書いた。これはそのまま "2666" にも当てはまり、今のところ、前作以上に「普通のリアリズム」が支配している。時空を超越した異形の世界はまだ見えてこない。
 とはいえ、突然、ピリオドのない長大な文がえんえんと始まったときは、「さあ、おいでなすった」と思ったものだ。ラテンアメリカ文学はこうでないと面白くない。が、コンマはあるし、翻訳者も前作と同じ Natasha Wimmer ということで、けっこう読みやすい英語である。これなら何とかなりそうだ。
 内容的には、読んだ範囲で言えばメロドラマのような気がする。Benno von Archimboldi という舌を噛みそうな名前のドイツ人作家に、4人の学者が強い関心をいだく。やがて4人は交流をはじめ、そのうちフランスとスペインの教授がイギリスの女性講師に恋をし、肉体関係を結ぶ。教授たちは「友情」を維持しながらも心の中では葛藤があり、三角関係のもつれがしばらく続く。ところが女性講師の前に若い男が現われ…といったあたりが、いちおう主筋。
 あとひとつ、Archimboldi を中心とする流れもある。この作家は当初無名だったが次第に名声を博し、ついにはノーベル賞候補にもなるほどなのに、経歴、風貌その他、正体はいっさい不明。その謎を解こうとするエピソードがいくつか紹介される。"The Savage Detectives" でも、いろいろな詩人や編集者など文学関係者が登場し、その交流が大きな要素を占めていたから、本書でも、この謎の作家がキーマンとなるかもしれない。
 以上に加え、教授たちが見た夢の中の物語などの「劇中劇」や、主筋とは関係なさそうなエピソードも混じり、饒舌な文体と相まってにぎやかな印象を受ける。さて、どうなりますか…