ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Mudbound" 雑感

 今年の全米書評家(批評家)協会賞はどうやら Roberto Bolano の "2666" で決まりのようなので、あとひとつだけ入手している候補作、Elizabeth Strout の "Olive Kitteridge" はとりあえず積ん読。最新のアレックス賞受賞作のひとつ、Hlillary Jordan の "Mudbound" に取りかかった。
 ヒラリー・ジョーダンはまったく知らない作家だが、これは彼女の処女作とのこと。表紙に Richard & Judy Book Club の推薦マークがあるほか、The Bellwether Prize という聞き馴れない文学賞の受賞作であることが裏表紙に載っている。
 で、そのベルウェザー賞というのをネットで検索してみると、かの Barbara Kingsolver が創設したもので、2001年から隔年、今までに5つの作品が受賞している。対象は、社会正義の問題を扱った北米新人作家の優秀作ということで、かなりおカタイ賞らしい。http://www.bellwetherprize.org/
 これまで読んだかぎり、技術的には新人作家らしからぬ達者な腕前である。嵐の前、2人の兄弟が父親の墓を掘っている冒頭シーンに始まり、章ごとに視点を変えながら次第に人物関係、物語の背景が明らかになっていく展開で、心理的に緊張感のある場面が続き、力強く引き締まった作品だと思う。
 第二次大戦後まもないミシシッピ州の農場が主な舞台で、農場主である白人男性とその家族、小作農の黒人一家が登場。人種差別の問題が採りあげられているので、これがベルウェザー賞の受賞理由だろう。そのほか、戦争の問題もからんでいるようだ。
 一方、アレックス賞に輝いた理由としては、兄弟のうち弟のほうがまだ青年で、黒人一家にもヨーロッパ戦線から帰国した若き軍曹がいる。この2人の「青春の嵐」がヤングアダルト向けの良書を選ぶ同賞にかかわっているのかもしれない。ほかにも農場主の妻が重要な役割を果たしているし、冒頭の墓堀りのシーンが大きな山場のようだが詳細は不明。これからどんな展開が待ち受けているかもちょっと読めない…といったところだ。