ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"The Detour" 雑感 (1)

 Gerbrand Bakker の "The Detour" をボチボチ読んでいる。2013年の Independent Foreign Fiction Prize の受賞作で、2014年の国際ダブリン文学賞最終候補作でもある。
 英訳作品を扱った文学賞といえば、今でこそブッカー国際賞が最も権威があるかもしれないが、歴史は浅く、2005年から。英米作家も対象にふくまれ、当初は隔年。単独の作品ではなく、作家活動全体を顕彰するのが趣旨だった。
 単独の英訳作品が対象で最も有名な文学賞は、ひょっとしたら Best Translated Book Award かもしれない。こちらは2008年から。2015年の国際ブッカー賞受賞作家、Laszlo Krasznahorkai はこの賞を2度受賞している(未読)。
 同様の賞でいちばん歴史が古いのは、この Independent Foreign Fiction Prize だろう。1990年からで、第1回目の受賞作家は Orphan Pamuk。以後、ぼくが知っているだけでも、Miran Kundera、Jose Saramago、W. G. Sebald と錚々たる顔ぶれである。
 で、本ブログの休止中、どんな作家が受賞したのだろうと調べているうちに発見したのが本書。Gerbrand Bakker の名前に記憶はまったくなかったが、裏表紙に紹介されている旧作のカバー写真を見て思い出した。2010年に "Twin" (2006) で国際ダブリン文学賞を受賞したオランダ人作家である。
 昔のレビューを読み返してみると、当たり前の話だが、同書は今回の "The Detour" と作風が似通っている。というわけで、レビューを再録しておこう。

The Twin

The Twin

[☆☆☆★★] 大事件は起こらなくても、主人公の心情と心象風景だけで小説が書けるという見本のような作品。オランダの小さな村の農場で、初老の男が死の床にある父親を一人で介護している。母親はとうに他界。双子の弟がいたが、若いころに事故死。男は頑固で横暴な父親のもと、好きでもない農業を手伝ってきた。そんな話が秋から冬にかけた物寂しい風景の中、少しずつ静かに綴られていく。静寂、孤独、寂寥、諦念の世界だ。そこへ突然、弟と結婚するはずだった女から連絡があり、引きこもりの息子を農場で雇うことになる。思いはまず、幼いころから一心同体のようだった双子の弟に向けられ、青春のほろ苦い一瞬、深い心の傷がよみがえる。ついで、黙々と過ごしてきた挫折の人生。だが、奇妙な共同生活を始めた女の息子もまた自己喪失の世界に沈んでいる。そんな二人の出会いから生まれたのは……。これは行間を楽しむ小説である。深い余韻の中に、心の絆を失った悲しみと、それを知る喜びがしみじみとこめられている。男の心情を汲みとるうちに、読者も自分の肉親や友人とのふれあいに思いを馳せ、わが人生は何だったのかとふりかえることだろう。原語との比較はできないが、とても読みやすい英訳だと思う。
(写真は、愛媛県宇和島市にある伊達家菩提寺のひとつ、法円寺)