ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Nadine Gordimer の “The Conservationist”(1)

 1974年のブッカー賞受賞作、Nadine Gordimer の "The Conservationist" を読了。Gordimer は南アフリカの作家で、1991年にノーベル文学賞を受賞。本書はたぶん彼女の代表作のひとつだと思うが、まだ邦訳は刊行されていないようだ。さっそくレビューを書いておこう。

The Conservationist

The Conservationist

[☆☆☆★★] これは決して面白い読み物ではない。まず山場となるような事件がほとんどない。たしかに殺人や干ばつや洪水などが起こるものの、それは南アフリカにある農場の日常生活のひとこまに過ぎない。それゆえプロットらしいプロットもない。小さなエピソードが流れては途切れる、その繰り返しだけだ。そして何より、強烈な個性を放つ人物もいなければ、人生観や世界観の衝突も起こらない。たまに自分の農場を訪れる白人のビジネスマンが黒人の作業監督と話し合い、元妻や愛人のことを思い出し、久しぶりに帰省した息子とまた別れる。その描写がどれをとっても非常に精密で難解をきわめる。人称が目まぐるしく変化し、視点がゆらぎ、過去と現在、予想される未来の出来事が入り組み、一見無関係な話題が続き、人物と風景の描写が交錯する。そうした突然のカットバックの連続がひとつのエピソードを形成しているのだ。このため山場がなく、プロットが消え、人物も個性を失うわけだが、ひるがえって、これは人間のありのままの姿、実存そのものである。人の心は常に変化し、同時にいろいろなことを脈絡もなく考え、決して一点にとどまることがない。また人生に事件はあっても筋書きはない。そして多くの場合、人間は現実に流されながら平凡な生活を送り、人と出会っては別れ、やがて自分も土の中に還っていく。本書は、そういう人間存在の実態を南アフリカの自然の中で克明にえがいた作品である。いきおい現地の土俗が前面に浮かび上がり、主人公であるはずの白人は影が薄くなる。それなのに政治的主張はみじんもない。読めば読むほど率直に、なるほど人間とはこんなものだと思わずにはいられなかった。