ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"City of Thieves" 雑感

 Hillary Jordan の "Mudbound" がとても面白かったので、今度は同じく今年のアレックス賞の受賞作、David Benioff の "City of Thieves" に取りかかった。ありがたいことに、これまたクイクイ読める本で、アレックス賞のレヴェルはいつもながら高いものだと改めて実感している。
 舞台は第二次大戦当時、ドイツ軍によって包囲されたレニングラードの街。かの有名なレニングラード包囲戦の話だが、空襲や戦闘シーンもいくつかあるものの、中心は両軍の正面切っての攻防ではなく、むしろ裏話的な色彩が濃い。主人公は今はフロリダで隠居生活を送っているロシア人で、アメリカ人の孫に頼まれ、17歳の少年だったころの包囲戦を回想する。
 長所としては、どの場面にも戦場の街ならではの緊迫感があり、ストーリーそのものも非常に面白いことだ。夜間外出の禁を犯して逮捕された少年が、脱走の容疑で同じく逮捕された兵士ともども処刑をまぬがれ、秘密警察の大佐の命令で、その娘のバースデイ・ケーキに必要な卵を入手すべく、題名どおり泥棒が横行し、闇市の盛んなレニングラードの街を徘徊する。やっと見つけた鶏が卵を産むのを待っていたら、なんと雄鶏だったというくだりなど爆笑もの。コミカルなタッチもあって楽しい。
 うぶな少年は当初、ハンサムで女の扱いに馴れた兵士に嫉妬するが、少年の父親は粛清された有名な詩人で、兵士はかねがね詩人を尊敬しており、今は小説を執筆中。さまざまな危機を乗りこえていくうちに、二人は次第に心が通じ合う。やがてレニングラード市内では卵が入手できないことが分かり、ドイツ軍の包囲網をかいくぐって近くの町へ調達に出かけるが、その過程で少年はどうやら将来の結婚相手らしい娘と出会う…といったところまで読み進んだ。
 あえて短所を指摘すると、たしかに波瀾万丈の冒険物語には違いないのだが、今のところ、「戦場の街の裏話」と聞いて連想する範囲を超えるものではない。血なまぐさい戦闘をはじめ、飢餓、厳冬、弱肉強食の世界…どれをとっても「想定内」の話ばかりなのだ。もちろん戦争の問題を深く掘り下げるわけでもない。どうやらこれは「文芸エンタメ系」のノリらしい。…つい、ないものねだりのケチをつけてしまったが、とにかく「クイクイ度」は抜群である。さて、どうなりますか。