ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Sea of Poppies" 雑感(1)

 これも去年のブッカー賞最終候補作のひとつで、最近ようやく安いペイパーバック版が出た。今日は第1部の終わりまで読み進んだが、量的には全体の3分の1なのに、内容としては長大なイントロといったところ。悠々たる大河の流れのような筆致である。
 主な舞台は19世紀、アヘン戦争前のカルカッタと周辺の村。海から遠く離れた村に住む女が帆船の夢を見たところから物語は始まる。がすぐに Ibis 号という帆船の話になり、アメリカを出たときは水夫だったが、人手不足のため、インドに着いたときは航海士になっていた男など、最初はまったく関係なさそうな人物が何人も登場し、それぞれの身の上話が語り継がれる。
 主な人物を拾ってみると、帆船の夢を見た村の女はケシを栽培し、夫は東インド会社の阿片工場で働いている。Ibis 号の船主は、奴隷の移送や阿片の売買を手がけているイギリス人貿易商。この貿易商と父親の代から取引のあるケシ畑の地主が今や借金地獄。一方、貿易商の家には、両親を亡くしたフランス娘が引き取られているが、その娘と幼なじみだったインド人の少年が、娘の頼みを聞いた上述の航海士の斡旋で Ibis 号の船員となる。
 …なんだか不得要領の粗筋紹介だが、要するに、最初は一見関係がなさそうだった人物の物語がいくつも続くうち、やがて以上のように、帆船、ケシ栽培、阿片などをキーワードにして結びつくという展開。それぞれのエピソードはまずまず面白いが、波瀾万丈というほどではない。今のところ、とにかく「悠々たる大河の流れのような筆致」で細部をひとひとつ丹念に描きこんでいる段階である。
 その細部がやがて壮大な物語へと発展しそうな伏線は少しずつ張られている。鍵となる人物は帆船の夢を見た女のようだが、詳細はまだ読めない。夫が死亡し、ヒンドゥー教の風習により、夫に殉じて火葬にされそうになるのを近所の男に助けられ、二人が結婚するところで第1部は終わる。ほかにも、借金地獄におちいった地主が貿易商の奸計で警察に逮捕されるなど、物語は少し動きはじめている。「長大なイントロ」のゆえんである。