ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jhumpa Lahiri の “The Lowland” (1)

 今年のブッカー賞最終候補作、Jhumpa Lahiri の "The Lowland" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

The Lowland

The Lowland

[☆☆☆★★] 雨が降れば水につかるカルカッタ市内の低地。少年時代にそこで遊んだ兄弟と、その家族の1960年代から現代まで、ほぼ半世紀にわたるファミリー・サーガ。時に回想が混じることもあるが、もっぱらクロニクル風の展開で、即物的といっていいほど淡々と客観描写がつづく。テーマは家族の絆である。兄弟や夫婦、親子などの愛と憎しみ、確執と和解が抑制された筆致で描かれ、書きようによってはお涙頂戴式になる場面でも、行間から深い感情がにじみ出てくるようで、かえってえぐりが効いている。若くしてアメリカに渡った兄とその妻、二人の娘の静かなバトルが読みどころ。とりわけ、それまでぐっと抑えていた感情が堰を切ってほとばしる妻と娘の対決は息をのむばかりで、そのあと、ハートウォーミングな孫娘の話をさりげなく持ち出す、といった緩急自在の職人芸が光る。カルカッタで過激派の組織に参加、テロ活動をおこなう弟をファミリー・サーガのいわば定点にすえることで、インドの現代史の潮流が見える一方、インド独特の家族のしきたりも物語の鍵となるなど、上記のテーマもふくめて定石どおり。堅牢な作りで水準に達しているが、旧作と較べるともの足りない。英語は標準的で読みやすい。