ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Sea of Poppies" 雑感(3)

 ううむ、長い! この3連休で何とか読破しようと思ったのに、夕べ『恋の手ほどき』を観ながらワインを飲んだのが敗因で、明日にズレこむことになってしまった。レビューを書けるのは明後日かな。
 一昨日の雑感で「悠々たる大河の流れのような筆致」と評したこの本だが、まことに大河小説の名にふさわしい作品である。『大辞林』によれば、大河小説とは、「一群の人々の生涯や家族の歴史など、社会的・時代的背景とともに広い視野から描く大長編小説」ということだが、本書はその定義にけっこう当てはまる。
 まず、アヘン戦争前のインドが舞台ということで、阿片をめぐるイギリス植民地政策の欺瞞や、カースト制度のひずみなど、大きな社会的・時代的背景があることはたしかだ。次に、登場人物がかなり多く、それぞれの身の上話、家族の歴史が第1部で相当な紙幅を割いて語り継がれる。ひとつひとつのエピソードは独立しているが、そのうち共通項が見えはじめ、第2部に入ると、各人物がいっそう関係を深める。ちょうど、いくつもの小さな支流が好き勝手に蛇行したあと、やがてひとつに交わって大きな流れとなるように、副筋と副筋が次第に交錯しながら物語の主筋を形成している。この意味でも、本書はいかにも大河小説らしい展開である。
 第3部では、主な人物が Ibis 号に乗り組み、カルカッタから一路、モーリシャス島を目ざすことになる。火葬にされかけた女は移民労働者として、貴族の身分を剥奪された地主は囚人として、フランス娘は正体を隠して移民労働者になりすまし、娘と幼なじみのインド人の少年は雑役夫として、娘に思いを寄せるアメリカ人の航海士は上司のパワハラに耐えながら。
 物理的には帆船という同じ空間を占めるようになった各人物だが、次第に相手の存在を意識しはじめているものの、まだまだ本格的にからみ合っているわけではない。物語の核心となるような事件も起こっていない。それが起きてたぶん終幕を迎えるのだろうが、そのとき初めて本書の主題も鮮明に分かるような気がする。