やっと読みおえた! 昨年のブッカー賞最終候補作のひとつだが、小さな活字がぎっしり詰まって530ページ。しかも難易度の高い単語が続出。だが、こういう作品を読破したときの満足感はまた格別である。昨日まで3回続けた雑感のまとめに過ぎないが、感激のさめないうちにレビューを書いておこう。
[☆☆☆★★★] 悠々たる大河のような展開…と思ったら、嵐のような結末が待っていた(実際、嵐の場面で幕を閉じる)。しかしこれでも三部作の第1部なのだとか。作者は壮大な大河小説を企画しているようだ。舞台は19世紀、
アヘン戦争前のインド。海から遠く離れた村でケシを栽培している女が帆船の夢を見たところから物語は始まる。阿片をめぐるイギリス植民地政策の欺瞞、
カースト制度のひずみ、唾棄すべき人種差別などを背景に、最初は無関係に思えた人物たちが次第に結びつき、過去の因習から解き放たれ、人種や階級の違いを乗りこえ、新しい人間、新しい家族の一員として生まれ変わろうとする。その真摯な生き方、悪戦苦闘ぶりが感動を呼ぶ。が、何しろまだ第1部ということで、長大なイントロに始まり、ようやくエンジン全開、波瀾万丈の展開になりかけたところで本編は終了。小説としての最終的な評価は完結を待たねばならない。とはいえ、各人物の身の上話や家族の歴史を丹念に語り継ぎ、やがて上述の政治的・社会的背景を浮き彫りにしながら、
カルカッタから
モーリシャス島へ向かう帆船という一つの空間に主要な人物を集め、その過程で個々の懸命に生きる姿を提示する手腕はじつに見事。時にもどかしさを覚えるほどゆったりした展開だが、腰をすえて気長に付き合ううちに物語のとりことなっている。終盤ほどサスペンスが高まり、風雲急を告げたところで結末を迎えるのは、次作を期待させる意味では当然の処理だろう。背景にある問題への突っこみ不足がやや気になるが、これも次作に期待。語彙レヴェルはかなり高く、とりわけ一種の
ピジン英語が厄介だが、文脈の解読に困るほどではない。