ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Kate Morton の "The Forgotten Garden"(1)

 仕事の合間にやっと読み終えた。今まで3回の雑感のまとめに過ぎないが、さっそくレビューを書いておこう。

The Forgotten Garden

The Forgotten Garden

[☆☆☆☆] ああ面白かった! 幼い少女が船上でなぜか置き去りにされるという冒頭からエンジン全開、とにかく凄まじい物語のパワーに圧倒される文芸ミステリである。ひとりイギリスからオーストラリアにたどり着いた娘は成人後、養父に事情を説明されて愕然とする。私はいったい誰なのか。百年にわたる娘の家族の歴史をたどりながら、この出生の秘密が少しずつ解き明かされていく。無駄なエピソードはひとつもなく、無意味な人間もひとりもいない。すべての細部が巧妙に絡み合っている。その伏線の張り方がまず見事。それぞれの物語をつなぐ話芸もすばらしい。20世紀初頭の娘の時代、やがて秘密の解明に取り組んだ老婦人の時代、21世紀になり、その遺志を継いで調査を進める孫娘の時代。そこに娘=老婦人の秘密を象徴するおとぎ話も混じるなど、場面転換の鮮やかさには舌を巻く。舞台も最高にいい。海を望む貴族の館、迷路の先にある、四方を壁で囲まれた庭。そこに秘密を解く鍵が隠されている。だが、何より胸を打つのは子供を思う母親の愛、そして子が母を思う愛だろう。それが置き去りにされた少女の運命の意味するものであり、物語全体のパワーを生みだす源泉ともなっている。英語はごく標準的でとても読みやすい。