ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Julie Orringer の “How to Breathe Underwater”(1)

  現在アメリカで "The Invisible Bridge" が人気を博している Julie Orringer の処女短編集、"How to Breathe Underwater" をやっと読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。

How to Breathe Underwater (Vintage Contemporaries)

How to Breathe Underwater (Vintage Contemporaries)

 青春時代に少女が、若い女性が思い悩むことども、体験する日常の出来事を最大限にドラマ化した短編集である。各話とも主人公はせいぜい十人並みの娘たち。多くの場合不器量で、加えてネクラで地味な性格ゆえ、美人の従姉や友人たちが人気を集めるのを尻目に悶々としている。恋敵をはじめ、感情的に対立する相手とのあいだに緊張関係がつづき、やがてその相手が大変な事件を引き起こす。事件に巻きこまれた娘たちは真剣そのもので、よかれあしかれ人生の現実を思い知らされる。その現実とは、一つには、純真無垢な少女や若い娘というお定まりのイメージからはほど遠く、女子供の世界にもじつは残酷でエゴイスティックな欲望や本能が働いているということだ。各短編とも、その残酷な本能がもたらすドラマに至るまでの話芸がすばらしい。また緊張関係のなかで煩悶しつつ、ドラマの一部始終を見とどけようとする娘たちの心理描写が見事で、結末に深い余韻がのこる。青春時代、「最大限にドラマ化」された日常の出来事を通じて人生の真実に直面した彼女たちの事件簿である。英語は標準的で読みやすい。