ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Mary Ann Shaffer & Annie Barrows の "The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society"(1)

 3日前にも書いたとおり、本書は去年の話題作のひとつで、 現在ニューヨーク・タイムズの Trade Paperback 部門ベストセラー第1位。本当はあっさり読めるはずだったが、風邪をひいて頓挫し、昨日やっと読み終えた。遅まきながらレビューを書いておこう。

The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society

The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society

[☆☆☆★★★] 戦争が背景にあるのに暗く深刻にならず、さりとて浅薄でもなく、人間の善良さ、正義感、人情や愛情など明るい面に的を絞った好感度抜群の作品。主人公も小説の基調も明朗快活で、読んでいて晴れやかな気分になるのが何よりありがたい。形式は(最後に日記も混じるものの)いわゆる書簡体小説で、主な舞台は第二次大戦直後のチャネル諸島。戦時中、ひょんなことからタイトルと同じ珍奇な名称の文学会が島で設立され、その一員からロンドン在住の売れっ子女流作家に手紙が届いたのがきっかけで、作家と島民たちとの文通が始まる。作家はやがて島を訪問、文学会を創設した女性のことを調べるうちに、その幼い遺児と心が深く通じあう。会の設立当時、島はドイツ軍の占領下にあり、当然悲惨な話がたくさん出てくるし、中には凄惨なシーンもある。が、そういう極限状況においても善意や正義感、愛情を忘れず、また陽気にたくましく生きる人間がいる。この事実ひとつとっても心が温まるというものだ。全編にわたって上品なユーモアにあふれ、ときにドタバタ喜劇や勘違いによる騒動が起こるのもほほえましい。暗いニュースが多く、意気消沈しがちな現代にあって、忘れていた何かを思い出させてくれる一服の清涼剤として本書を大いに賞賛したい。英語もごく標準的で読みやすい。