ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Steven Millhauser の "Dangerous Laughter"(4)

 Marisa de los Santos の "Belong to Me" をボチボチ読みだしたところだが、首筋の痛みはだいぶ治まったものの、職場が「農繁期」に入り、なかなか思うようにページが進まない。仕方なく、昨日の補足を書いておこう。
 「もしファンタジーが実際の現実とは無関係で、読後も自分の生き方にかかわってこないのなら、それは娯楽小説に過ぎない」。じつに乱暴な言説で、熱烈なファンタジー・ファンが目にしたら非難ゴーゴーということになりそうだが、「もし〜なら」という条件つきであることでお許し願いたい。
 ともあれ、ある小説を読んで、それが「読後も自分の生き方にかかわって」くる、とはどういうことなのか。大ざっぱに言えば、理想的には、「目から鱗が落ちるような人間に関する発見」が得られることだ、とぼくは考えている。あるいは、我が意を得たり、と登場人物の人生や作品そのものに感動できること。そこに啓蒙や感動があれば、その後生きていく上で、もしくは次の本を読むとき、それまでとは少し違った見方ができるかもしれない。
 またまた粗雑な論旨展開だが、深入りすると今日一日では片づかない問題なので "Dangerous Laughter" に話を戻すと、ぼくがいちばん気に入ったのは、「『闇の中の少女』とでも題すべき第3話("The Room in the Attic")で、細部の描写を通じて異次元への扉をひらき、彼方の存在を認識しようとする試みの中に青春小説の味わいもある」。
 なんだ、啓蒙や感動がどうのこうのと大見得を切った割には甘い趣味だな、と皮肉られそうだが、少年のひと夏の不思議な経験を描いたこの作品はけっこう心にしみる。こんな物語がほかにもっとあれば、「異形の世界を創出する意味はどこにあるのだろうか」などと疑問に思うこともなかったろう。本書は去年のニューヨーク・タイムズ紙選定最優秀作品のひとつだが、同紙のレビュアー、Michiko Kakutani と Janet Maslin は個人ベストには挙げていない。もしかしたら、二人ともぼくと同じ理由で外したのかもしれない。