ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Last Night in Twisted River" 雑感(2)

 いつもの「遅読症」のため、まだ第4部の途中までしか読んでいないが、全体の印象は前回と同じで「まずまず面白い」。言い換えれば、「期待したほどではない」。
 ただし、第3部にはケッサクなシークェンスがある。全裸のブロンド女が軽飛行機からパラシュートで降下、しかも何と豚を閉じこめた囲いの中へ。それを「救出」するのが主人公の Daniel で、Daniel も女も悪戦フン闘。このシーンは大いに笑える。
 それから同じく第3部には、ヴェトナム戦争サイゴン陥落の日、あの有名なヘリコプターによる救出劇をTV中継で見ていたレストランのコックが指先をうっかり切り落としてしまう場面があり、このくだりも抱腹絶倒もの。こういう奇想天外なドタバタ劇こそ、アーヴィングの真骨頂のひとつではないだろうか。
 ただ、そういう(ぼく好みの)本調子になるのが第3部に入ってから、というのがいささか物足りない。もちろん第1部でも、前回紹介したようなスラップスティック調の事件が起こるし、以後もときどき吹き出すシーンはあるのだが、旧作の強烈なイメージが災いしてか、もっともっとクレージーな物語をつい期待してしまう。その結果、実際の出来ばえは「まずまず面白い」程度にしか思えないわけだ。
 物語の展開にも若干問題あり。第1部は1954年のニューハンプシャー州の町、第2部は67年のボストン、第3部は83年のヴァーモント州の町、第4部は2000年のトロントがそれぞれ主な舞台だが、たとえば第2部では、第1部からの13年間の出来事が回想シーン、あるいは将来の事件と並行しながら述べられる。こういう過去と現在、未来の交錯はアーヴィングならずとも定石で、うまく処理すれば変化に富んだ展開を生むものだが、本書の場合、それが必ずしも効果的ではなく、むしろ煩雑にさえ思えることがある。映画で言えばカットバックが多すぎるのだ。ひるがえって、これは圧倒的な物語の推進力が不足している証拠のような気もする。
 …ほかにも気になる点はあるが、長くなったので今日はこれでおしまい。