ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

John Irving の "Last Night in Twisted River"(1)

 John Irving の新作、"Last Night in Twisted River" を読みおえた。いつものように雑感のまとめになりそうだが、さっそくレビューを書いておこう。

Last Night in Twisted River

Last Night in Twisted River

Last Night in Twisted River: A Novel

Last Night in Twisted River: A Novel


[☆☆☆★★] 例によって奇想天外なドタバタ劇が続き、複雑なストーリー、精密な細部描写、小説中の現実とフィクションの混淆など、さまざまな工夫がほどこされているものの、本質的には意外にも単純な人情話、メロドラマである。親友同士だった二人の男が同じ女を愛してしまうという、映画『突然炎のごとく』でおなじみのパターンだ。それを足かけ半世紀にもわたる大河ドラマに仕立てあげ、さらには、ヴェトナム戦争や9.11テロ事件といった大きな時代のうねりまでも描いてしまう力業がすごい。料理のレシピが紹介されたかと思うとイラク戦争の話が続く。そんな何でもありのごった煮の世界にも、いつもながら感心してしまう。主人公の少年が長じてベストセラー作家となるのも主筋のひとつだが、この作家の激動の人生から、真の主人公とも言うべき別の男の人生が浮かびあがる構成もいい。全裸の金髪女がパラシュートで養豚場に降りてくるフン闘シーンなど絶好調。ただし、全体としては「ドタバタ度」が不足気味で、昔のアーヴィングならもっと奇想天外、もっとクレージーな物語を仕上げたはず、と思ってしまう。作家を主人公にすえることで「現実とフィクションの混淆」が生まれるのはいいとして、それがマジックリアリズムの世界にまでは昇華されず、現実の平面にとどまったまま「意外にも単純な人情話、メロドラマ」に終わっているのが生ぬるい。カットバックの多用がしばしば話の流れを妨げている点も気になる。平明な英語だが、語彙レヴェルとしては高いほうだろう。