ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Shadow Country" 雑感(2)

 ブッカー賞ロングリストの発表が迫ってきた(ロンドン時間28日)。例によって現地ファンのヒートアップぶりは相当なものだが、ぼくは今年は1冊しか〈ロングリスト候補作〉を読んだことがないので("The Mirror & the Light" ☆☆☆★★)、個人的にはまったく盛り上がらない。
 一方、表題作の第3部(合冊前の旧題 "Bone by Bone")はかなり面白くなってきた。☆☆☆★★★を進呈してもいい。主な舞台はフロリダ半島の南端部なので西部劇ではないが、西部劇と聞いて連想する要素の多くがここには詰まっている。
 といっても、主人公 E. J. Watson はジョン・ウェインのような正義のヒーローではなく、無法者や乱暴者、強欲な男たちがひしめく弱肉強食の未開の地で生きていくため、みずから暴力に訴えることもあるタフガイ。貧しい生まれながら勤勉で才覚に富み、農園主として成功するものの、自堕落で放蕩無頼、短気で酒を飲むと暴れまわる一面もあり、そんな性格が災いして誤解を招き、あるいは根も葉もない噂を立てられ、次第に恐怖のレジェンドとなっていく。
 途中までは☆☆☆★★だったが、悪党との駆け引きや対決シーン、ガンプレイなど西部劇でおなじみの場面にニヤリとさせられ、西部劇ファンのぼくとしては俄然、点数を増やしたくなった。Watson はイケメンでもあるので、演じさせるならクリント・イーストウッドあたりか。ただし、正義にこだわりすぎないイーストウッド。『許されざる者』に続く監督作品として、彼が本書に興味を示したことがあるかもしれませんな。
 さて、ここから別件の付録。破格というほどではないが、5月に読んだ Olivia Manning の "The Balkan Trilogy" 以来、あれ、こんな用法あったっけ、と目についた例文をいくつか、江川泰一郎著『英文法解説』(改訂3版)をほぼ30年ぶりにひもときながら挙げておこう。ぼくの不勉強の証しでもあります。 

英文法解説

英文法解説

 

You English, what are you doing that you fight against the Germans?("The Balkan Trilogy" p.327)
 この that 節は完全文。ゆえに that は接続詞。「主として反語的な疑問文で」使われる理由・原因を示す用法である(江川 p.388)。なお以前、Faulkner の "The Mansion" でも似たような例に出くわし面食らったことがある。

What happened that we set exactly three oclock as the magic deadline in this-here business?(p.431)
 これは反語ではないが、「主として」とは普通の疑問文の場合もある、という意だろう。江川本をちゃんと勉強しておけば、あの時べつに戸惑うこともなかったわけだ、と遅まきながら反省。 

How about the daughter just stay here until the end of time?(Edwidge Danticat "Everything Inside" p.59)
 これは最近の用法かもしれない。How about のあとは通例、名詞か動名詞。節は不可というのが学校英文法で、江川本にも例外の記述はない。そういえば、"The Mirror & the Light" にも仮定法と nexus の面白い例があった。 

 ほかにも「変形英文法」の用例を少々集めているので、いつか紹介することにしよう。