ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Karen Fisher の “A Sudden Country”

 職場がちょっとした繁忙期となり昨日は「自宅残業」にいそしんだが、今日は珍しくロ短調ミサ曲を聴きながら本書に取り組み、今ようやく読みおえた。内容を忘れないうちにさっそくレビューを書いておこう。

A Sudden Country: A Novel

A Sudden Country: A Novel

[☆☆☆★] 西部劇といえばジョン・フォードの名画から一定のイメージを連想するものだが、本書はあの単純明快な世界の裏話で、いわばリアルなウェスタン小説。19世紀なかば、ミシシッピ川を越えてはるか西、オレゴンの地を目指す幌馬車隊が荒野でさまざまな苦難に遭遇する。が、この史実、「オレゴン・フィーバー」が大枠にあるとわかるのは後半で、前半はむしろラブロマンスとしての色彩が強い。インディアンの幼妻が若い男を追いかけて出奔、子供たちを病気で失った男と、夫の死後、幼い子供たちをかかえてやむなく再婚した女が出会う。亡き夫や逃げた妻への思慕、深い悲しみ、喪失感、愛なき結婚生活における閉塞感…それぞれの胸に渦巻くやるせない思いが交錯し、やがて荒野の中で…。要は不倫話なのに純粋な愛情が結晶のように美しく、ときには詩的な場面さえある。が、後半、幌馬車隊のサバイバル物語と化したあたりから、二人の恋も歴史小説の中に封じこめられてしまい、その結末は最初から見えているものの竜頭蛇尾。史実にフィクションを織りまぜるのは定石だが、どうせなら最後までもっとドラマティックに仕上げてもよかったのではないか。英語は語彙的には水準以上だが読みやすい。