ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2011年ギラー賞ショートリスト発表 (The Scotiabank Giller Prize Shortlist 2011)

 Ron Rash の "Burning Bright" について駄文の続きを書くはずだったが、このところ職場がまた繁忙期に入り、ついこのブログをサボっているうちに、読了直後の印象が薄れてしまった。要は、その程度の作品だったということだ。
 ボチボチ読んでいる本はあるのだが、昨日、カナダで最も権威のある文学賞、ギラー賞のショートリストが発表されたので、今日はそれを並べてお茶を濁そう。リストを見ると、今年のブッカー賞の最終候補作にもなっている作品が2つ選ばれている。そのレビューを再録しておきます。なお、"Half Blood Blues" の星数は、厳しすぎたかなと反省し、★を(Stephen Kelman の "Pigeon English" と同じく)1つ増やしました。お遊びとはいえ、小説を採点するのはむずかしいですな。

The Free World

The Free World

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The Antagonist

The Antagonist

The Sisters Brothers

The Sisters Brothers

[☆☆☆★★★] 映画にしても小説にしても、これほど愉快な西部劇に出会うのはそう何度もあるものではない。軽妙にして痛快、ユーモアとハードアクションが同居。しかも、お涙頂戴式ではないしんみりした味わいもある。ゴールド・ラッシュの時代、殺し屋の兄弟2人が、ボスに逆らった男を始末すべく、オレゴンからカリフォルニアへ。早射ちの名人でタフガイの兄と、不器用ながら人情の厚い弟。荒野を行き、決闘や酒場での大騒ぎ、娼婦とのからみ、インディアンの襲撃などおなじみのシーンもあるが、何と言ってもほら話に近い珍談奇談の連続が楽しい。凄惨な暴行や殺人が起きたあとにもユーモアが感じられ、爆笑もののドタバタ喜劇もあれば、人生への思いからふと哀愁を帯びることも。この転調の面白さと珍妙な事件の数々により、本書は西部劇の定型を打ち破った西部劇となっている。終盤のSFじみた砂金探しは、ほら話もきわまれりなのに、人生のはかなさをしみじみと感じさせる。おかしくておかしくて、やがてはかなきアウトローかな。英語は内容をよく反映したノリのいい文体で、難語も散見されるものの総じて読みやすい。
Half Blood Blues

Half Blood Blues

[☆☆☆★★] 青春とは激しい嵐に吹かれ、深く傷つく時代。平凡なテーマだが、その嵐にふさわしい人物と舞台の設定によって水準を超えている。第二次大戦前夜のベルリン、そしてドイツ軍による占領直後のパリで、二流のジャズ・ベース奏者が若き天才トランペッターとからみ合う。友情、嫉妬、欲望、挫折。おなじみのブルースが流れるなか、突然、恐怖の事件が何度か起こり、サスペンスが一気に高まる。恋愛沙汰もふくめ、定番の読み物の面白さだが、熱気を帯びたミュージック・シーンの描写は秀逸。かのルイ・アームストロングを脇役としてうまく使っているのも得点材料だ。この波乱に満ちた過去編とくらべ、今や老人の元ベース奏者が昔のバンド仲間と再会する現代編は、やはり緊張が走る場面もあるものの尻すぼみ。荒削りな物語になってしまったのが残念だが、全体として、青春の嵐と心の傷というブルースはよく伝わってくる。黒人が語り手ということで英語はブロークン。口語、俗語とりまぜた力強い骨太の文体だ。
Zsuzsi Gartner, "Better Living Through Plastic Explosives" (カバー写真、発見できませんでした。日本では未発売?)
The Cat's Table

The Cat's Table

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