ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Paulette Jiles の “The Color of Lightning”(1)

 昨日読みおえた昨年のギラー賞(Scotiabank Giller Prize)候補作、Paulette Jiles の "The Color of Lightning" のレビューを書いておこう。ショートリストにも残らなかった作品だが、一般読者のあいだでは本命視されていたという記事をどこかで読んだ憶えがある。

The Color of Lightning: A Novel (P.S.)

The Color of Lightning: A Novel (P.S.)

[☆☆☆★★★] 大きな流れが二つある。主筋は南北戦争の末期、新天地を求めてテキサスに移住したばかりの黒人一家をインディアンが急襲、男は連れ去られた妻子の救出に乗りだす…というもので、こちらは凄惨な殺戮シーンをはじめとするリアルなウェスタン小説。妻と深い心の絆で結ばれ、数々の苦難を乗り越える男の人生は、愛と信頼と勇気の大切さを改めて教えてくれる。妻や息子など、男とかかわる人物たちの陰翳に富んだ心理描写もすばらしく、手に汗握る冒険活劇にとどまらない深みがある。一方、本書をさらに奥行きのある作品に仕上げているのが副筋で、インディアンに平和と友愛の精神で接し、彼らを文明生活に導こうとするクェーカー教徒の男が準主役。その導入を通じて白人によるインディアン迫害の歴史が語られるなど、ここには勧善懲悪とはほど遠い複雑な問題がからんでいることがわかる。理想主義者の男は毅然とした態度でインディアンを善導しようとするものの、拉致された白人が必ずしも元の生活を望まないといった現実の壁にぶつかり、さらには、インディアンの蛮行を目の当たりにして、クェーカー教徒としての信条を放棄する破目になる。このくだり、平和主義の限界を露呈した問題作と言えよう。語彙的にはやや難度が高いが総じて読みやすい英語である。