ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“How to Breathe Underwater”雑感(1)

 一つだけ "Secret Daughter" の補足をしておこう。「秘密の娘」の実の両親は一時期、ムンバイの有名なスラム街 Dharavi に住んでいる。アメリカ人として育った娘も現地を訪れ、そこに住む人々と接触する。「有名な」と書いたが、じつは本書を読むまでぼくは、このアジア最大のスラム街のことをまったく知らなかった。
 本書では、母親も娘も初めてそこに足を踏みいれたとき、めまいを覚え、吐き気をもよおしたという趣旨のことが述べられている。その「精密で詳細な描写」からはまさに悪臭が漂ってきそうなほどで、しばし本を読むのをやめ、ネットで写真を見たとき、ぼくも目がクラクラしてきた。
 だが、それほど劣悪きわまる絶望的な環境の中でも希望を忘れず、たくましく生きる母親たちがいる、というのがこの "Secret Daughter" のサブテーマである。タイトルは『秘密の娘』だが、じつは実母と養母、2人の母親が主人公という物語の骨子ともつながっていて、その点でも本書はほんとうに読みごたえがある。
 さて、話変わって今度は Julie Orringer の短編集、"How to Breathe Underwater" に取りかかった。例によって知らない作家の知らない作品だが、これは先月末、今年の全米批評家(書評家)協会賞の候補作、Hans Keilson の "Comedy in a Minor Key" を読んだとき、あちらの「カスタマーがほかに買った本」という例のリストに載っているのを見つけ、何となく興味を惹かれた本だ。彼女の長編 "The Invisible Bridge" も載っていたが、同書は現在アメリカでかなり売れ行きがいいようだ。
 今日はやっと第4話までたどり着いたところだが、ぼくのお気に入りは第3話の "The Isabel Fish"。これにかぎらず、主人公はいずれも10代の少女や20代初めの女性で、みんな太っていたりガリガリだったり不器量、性格的にも地味な娘ばかり。兄やクラスメートたちからいじめられるなど、主人公と感情的に対立する相手が必ず存在し、その緊張関係が続くうちにある大変な事件が持ちあがる。…長くなった。またまた風邪をひいて頭が痛いので、今日はもうおしまい。