ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Julie Orringer の “How to Breathe Underwater”(2)

 昨日はじつは仕事を休み、寝床の中でボーッとしながら本書を読みおえた。そんな調子だから全体的なテーマをなかなか捉えられなかったが、最後の短編 "Stations of the Cross" に差しかかってようやく気がついた。なんだ、「女子供の世界にもじつは残酷でエゴイスティックな欲望や本能が働いているということ」じゃないか。
 そう考えると、あまりピンとこなかった最初の2話も合点が行き、以後、たしかにこの短編集は、「女子供の残酷な本能がもたらすドラマ」の「事件簿」と言える。ここに登場する小中高校生の娘たちは「純真無垢…というお定まりのイメージからはほど遠く」、とりわけ少年たちに人気のある美少女ほど「エゴイスティックな欲望や本能」に駆られ、歯止めが効かずに暴走する。それに引きずられるのが主人公の「ネクラで地味な」「十人並みの娘たち」という図式だ。
 もちろん、この図式が当てはまらない短編もあり、その一つがタイトルと関連している第3話 "The Isabel Fish"。恋人を交通事故で失った兄と、その事故で九死に一生を得た妹の和解の物語だが、たぶんこれがいちばん爽やかな印象を受けるかもしれない。ただし、ここにも子供ゆえの「歯止めの効かない暴走」は認められる。ほかにもいくつか例外的な作品もあるが、よく見るとどこかに「暴走」がからんでいる。
 純真無垢な子供が「お定まりのイメージ」なら、残酷な子供というのもまた定番の設定かもしれない。その意味では本書は、決して人生の諸問題を目から鱗が落ちるように掘り下げたものではない。それなのに「結末に深い余韻がのこる」のは、主人公の娘たちが、人間の残酷な面を知って茫然としている様子がありありと伝わってくるからだ。そこがとてもいい。
 ともあれ、本書の刊行は2003年。瓢箪から駒のような感じで見つけた作品だが、Orringer の第2作で処女長編 "The Invisible Bridge" は現在アメリカでかなり売れ行き好調のようだ。近いうちに読めたらいいなと思っている。