ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Tom Rachman の “The Imperfectionists”(2)

 昨日の飛び入りで順番が狂ってしまい、本書のモードに頭を戻すのが大変だが、さいわいメモ書きがのこっているので、それをもとに少しだけ補足しておこう。
 登場人物はみんな、「対人的、外見的にはタフな人物もふくめ、心の中ではいちように鬱屈し、悩み苦しんでいる」とレビューに書いたが、その代表例としては、腕利きの編集局長や、誤植の発見に血道を上げる校正部のボス、クビ切りの糸を引く財務部長など。彼ら彼女たちはいずれも周囲から恐れられ、煙たがられ、嫌われているが、私生活では…というギャップが面白い。その内面を知ると愛すべき存在にさえ思えてくる。ところが、次の物語で主役を降り、脇役や端役に転じたとたん憎らしい人物として描かれる。
 そういう人間の二面性はどこの職場でも当たり前に認められる現実かもしれず、ぼくはこれを読みながら、身につまされると同時にクワバラ、クワバラと思ってしまった。誰しも相手をバカヤローとののしりつつ、ふと吾にかえると心は深く傷ついている。一方、相手にすれば、こちらがきっとバカヤローなのだ。その相手もまた…。きっとおたがい、そんなことを考えながら働いているんだろうな。
 カイロの見習い特派員がヴェテラン記者に引きずりまわされる第6話は、まさに抱腹絶倒もの。と思ったら第8話では、オタク趣味のニュース編集者が同棲している恋人の浮気を発見。彼も嫌われ者の一人だが、ぼくはこの幕切れに文字どおり絶句。両極にあるような2つの物語を続けて読むだけでも、「とにかく愉快、痛快にして胸をえぐられる」。
 さすが Janet Maslin、すばらしい作品を年間ベスト10に選んでいますな。たぶん Michiko Kakutani と分担して推薦書を決めているのだろうが、後者の選んだ "Super Sad True Love Story" よりも若干、本書のほうがぼくのゴヒイキです。なお、今検索したら、ニューヨーク・タイムズ紙の Trade Paperback 部門ベストセラー第11位だった。