まずテキストの補足をしておくと、ぼくが読んだのは Penguin Books。ところが、どういうわけかカバー写真を掲載することができない。しかたなく、きのうはハードカバーで代用することにした。いつか可能になったらペンギン版に差し替えようと思っている。本書に興味をもたれた方は、直接アマゾンでそちらを検索してください。
つぎに、これはきのうも述べたとおり、昨年の全米図書賞最終候補作だったので、去年の10月12日の日記にも、ほかの候補作とあわせてレビューを載せておきました(http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20121012)。
同賞の候補作をぜんぶ読んだのは今回が初めてかもしれない。ぼくの評価では、受賞した "The Round House" より、"Billy Lynn's Long Halftime Walk" のほうが今でも上であることに変わりはないけれど、さりとて同書にも難点がないわけではない。"A Hologram for the King" はどうかというと、"The Round House" と同点ながら、好みとしては候補作中第2位として推薦したい。
もちろん、これにも気になる点はある。たとえば後半、舞台がプレゼンの会場からべつの場所に移るのは、物語に変化をつける意味で当然としても、やや間延びしたくだりが目につく。それより何より、ミもフタもない話をすると、本書を読んだからといって得られるものは何もないかもしれない。人生の不条理? 実存の不安? そんなの当たり前じゃないですか!
……と叫びたいところだが、この虚無感、不条理感が身にしみるのですな。「得られるものは何もないかもしれない」と述べたばかりの前言をひるがえすと、じつは共感を大いに得られる人がいるのではないか。ぼくなど最近、「俺は誰だ」「私はなぜここにいるのか」「ぼくの人生は何だったのか」という疑問が頭をかすめない日はないくらいだ。そんな立場で読むから、「ふと流れこんでくる人生の悲哀にしんみり。虚無の深淵に頭をかかえこむ」のである。
それゆえ、ぼくも Michiko Kakutani とおなじく、本書を去年の favorite books に選んでもいいなと思っている。上の理由で、best books のひとつかどうかは決めかねますが……。
裏表紙によると、その Kakutani 女史は、本書を 'A comic but deeply affecting tale about one man's travails that also provides a bright, digital snapshot of our times' と評している。さすがプロはうまい言い方をしますな。