ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Matterhorn”雑感(3)

 昨日も今日も出勤で疲れたが、いよいよ明日から待望の連休。多少は「自宅残業」をこなさないといけないものの、職場よりは気が楽だ。今夜は前祝いに痛飲することにしているので、その前に大急ぎで本書の感想の続きを書いておこう。
 今はようやく中盤に差しかかってきたところ。大作ならではの悠々たるペースというのか、内容的には前回とほとんど変わらない。米軍の偵察隊が北ヴェトナム兵と遭遇した事件を除けば、あとはジャングルの雨中行軍や陣地の設営など、もっぱら「戦闘準備場面」ばかりだ。
 人的要素としては、相変わらず黒人兵と白人兵の対立も続くほか、自分の武勲を優先させる司令官の理不尽な命令により、兵士たちが6日間も食糧なしに行軍や作業を強いられたあげく、マラリアにかかった兵士が死亡するなど、次第に戦争の不条理や無益性が強調されつつある。
 一方、霧の中にうかびあがる断崖や、遠くに見える北ヴェトナムの山々の風景、物資補給のために飛んできたヘリの爆音など、淡々とした筆致ながら映画的な効果も十分あるのだが、天の邪鬼のぼくは思う。なんだ、そんなの数多くのヴェトナム戦争映画でおなじみの場面じゃないか。それより何より、あの戦争の場合、不条理や無益性という内容そのものがもう言い古されているのではないのか。
 つまり、「なぜ今ごろヴェトナム戦争の小説なのか?」という疑問は、中盤にいたるもまだ解消されていないのである。これから後半にかけて、おそらく激しい戦闘が行なわれることだろうが、その中ではたしてどれほど斬新なアプローチが見られるのか注目したい。