ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“22 Britannia Road”雑感

 "Matterhorn" についてひとつだけ補足しておこう。「なぜ今ごろヴェトナム戦争の小説なのか」という当初の疑問だが、これは結局、アメリカの作家があの戦争を「ひとつの人間的現実として冷静にとらえ」るには、30年以上もの長い年月を要した、ということなのかもしれない。少なくとも、不勉強のぼくはこれが初めて読んだ本格的なヴェトナム物なので、そう考えるしかない。もしこの解釈が正しいなら、それだけあの戦争はアメリカにも深い傷をのこしていた、と言えるかもしれない。
 さて、今度は Amanda Hodgkinson の "22 Britannia Road" に取りかかった。これは先月の米アマゾン月間最優秀作品で、あの Irene Nemirovsky の "Suite Francaise" そっくりの表紙を見て読みたくなった。といっても、それはハードカバーの話で、ぼくが入手したのは Trade Paperback 版だが、こちらもなかなか魅力的な表紙だ。
 というわけで、毎度ながら内容も確認せずに飛びつき、"Suite Francaise" と同じような作品かなと想像しながら読みはじめた。すると、たしかに第二次大戦中のフランスもひとつの舞台という点では一致するものの、おもむきはがらっと異なっている。こちらはまあ、ストーリー重視型の文芸エンタメ路線。ジャンル的には、戦争がらみのメロドラマといったところ。悪くはないのだが、これで「月間最優秀」とは4月はよっぽど不作だったのか、と言いたくなる。
 でもまあ "Matterhorn" ほど分厚くないし、「通勤快読」にはもってこいだろう。主な舞台は終戦の翌年、イギリス、サフォーク州の小さな港町で、ポーランド難民の夫妻とその息子が主な登場人物だ。夫妻は大戦前、独ソによるポーランド分割の混乱期に生き別れとなっていたが、6年ぶりにイギリスで再会。幸せな家庭生活を再開するはずだったが、夫は戦時中、フランスで知りあった女のことが忘れられない。しかし妻のほうも、何やら重大な秘密があるようす。その鍵を握っているのは、妻がずっと連れ歩いていた幼い息子…なのかな。
 以上が主筋で、全体は三次元中継というのか、戦争中、離ればなれになった夫婦がそれぞれの立場でくぐり抜けた修羅場の過去編と、夫婦の葛藤にくわえ、父親と父親を敵視する息子との親子関係を描いた現在編が交互に進行している。
 …と要約しただけで、そっくり同じではないにしても、何かの映画かTVドラマで見たことのある物語のような気がする。しかし乗りかかった船だ。明日も「通勤快読」になるといいな。