ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“All Our Worldly Goods” 雑感

 みなさん同様、「暑いですなあ」というのがこの連日のあいさつだ。おととい読みおえたSF青春小説 "The Age of Miracles" にも炎熱地獄の中、停電、節電、配電の話が出てきて他人事ではなかった。毎日、〈スタバ〉に寄って涼んで帰るのが日課となっている。
 閑話休題。先週届いた今年のブッカー賞候補作、Jeet Thayil の "Narcopolis" も気になるが(パブリシャーズ・ウイークリー誌では好評。 http://www.publishersweekly.com/978-1-59420-330-5)、予定どおり Irene Nemirovsky の "All Our Worldly Goods" を読んでいる。いや、ほんとうはバルザックの "Lost Illusions" でも読もうかな、と思ったのだが、ちと長すぎて気合いが入らない。今年の夏は新作だけでなく、少しばかり世界の名作を英語で catch up しようと一念発起したものの、早くも腰砕け。とりあえず、フランス文学からは Nemirovsky を選んでみた。もっとも、"All Our Worldly Goods" が名作かどうかは知らない。
 Irene Nemirovsky といえば、ご存じ "Suite Francaise" の作者である。ぼくにしては珍しく履歴を紹介すると、1902年キエフで生まれたがロシア革命の際、フランスに移住。ソルボンヌ大学で学んだあと作家活動を始め、"David Golder" (未読) がまず好評を博した。その後、12冊以上の作品を発表。1942年、アウシュヴィッツで死亡。それから60年以上もたった2004年、"Suite Francaise" がフランスで初めて刊行され、06年に英訳が出版。ぼくは07年の3月だったか、ペイパーバック版が出たときに読んだ。そのとき受けた感動はいまだに忘れられない。レビューも書いたが、今まで Nemirovsky からはつい遠ざかっていた。
 久しぶりに "Suite Francaise" を書棚の奥から引っぱり出してみると、表紙裏に復元された、非常に小さな字のペン書きの原稿に改めて鬼気迫るような作家魂を感じる。百聞は一見にしかず、未読の方はぜひ Vintage 版を手に取ってみてください(邦訳については未検索)。もう何度かレビューを再録したので今日は省略するが、今年の3月12日に再録したとき、☆☆☆☆★★を進呈した。
 ありゃ、看板に偽りあり、となりそうだ。ここまで書いただけでもう息切れしてしまった。ともあれ、5年ぶりに読む Nemirovsky の作品である。いやが上にも期待が高まるというものだが、正直言って、この "All Our Worldly Goods" は今のところ、作者の死で未完に終わった "Suite Francaise" ほどの出来ばえではない。が、さすがに読みごたえは十分にある。と気を持たせるようだが、どこがすばらしいかはまた後日。