ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Ann Patchett の “State of Wonder” (2)

 雑感にも書いたとおり、本書はここ4ヵ月、アメリカでベストセラーになっている。今検索すると、ニューヨーク・タイムズ紙のハードカバー部門、米アマゾンでは書籍全般のリストに載っていた。ぼくが入手したのはイギリスのペイパーバック版だが、イギリスではアメリカほどの売れ行きではないようだ。
 ともあれ、最初からその文章に「ひと目惚れ」。読了後、まっ先に思いうかんだのは「呆れるほどうまい小説だ」という感想で、長らく積ん読にしておいたのが信じられない。今まで Patchett を素通りしてきたのもフシギで、せめて "Bel Canto" だけでも catch up しなければ、と思うのだが、きっともう評価の定まった秀作なんでしょう。どうやらまた後回しになりそうだ。
 さて Ann Patchett だが、その本質はストーリー・テラーではないだろうか。それも、ただ単に波瀾万丈の物語専門ではなく、人物をじっくり練り上げ、心理描写を事件にうまくからませながら物語をつむぎだす作家。要するに、大人の作家ですな。
 「情景描写も的確そのものだ」。以下は、主人公のマリーナたちを虫が襲ってくるところ。At dusk the insects came down in a storm, the hard-shelled and soft-shelled, the biting and stinging, the chirping and buzzing and droning, every last one unfolded its paper wings and flew with unimaginable velocity into the eyes and mouths and noses of the only three humans they could find. (p.183) 第7章の冒頭だが、いきなりこういう場面から新しい章が始まるのだから、思わず、おっと引きこまれてしまう。
 先週の日記でふれたように、今回から星の数で採点もすることにした。故・双葉十三郎氏の『西洋シネマ体系 ぼくの採点表』のパクリである。「芸術には試験の答案みたいな満点などありえない」という氏の持論に従って、ぼくも☆☆☆☆☆はつけないことにする。ちなみに、氏の最高点は☆☆☆☆★★だった。
 で、本書は☆☆☆☆(ダンゼン優秀)。「呆れるほどうまい小説だ」が、不朽の名作というほどではない。☆☆☆★★★(上出来の部類)だと辛すぎるかな、と思ってサービスした。気になった点は昨日のレビューの末尾にちらっと書いたが、ほかにもまだある。が、それを説明する時間がない。このブログだけ読むと、なんだか「洋書三昧」のように思われるだろうけど、なにしろ宮仕えの身でオイソガシなんですよ。