ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Yiyun Li の “Gold Boy, Emerald Girl” (1)

 今年のフランク・オコナー国際短編賞の最終候補作、Yiyun Li の "Gold Boy, Emerald Girl" を読みおえた。さっそくいつものように、まずレビューを書いておこう。

Gold Boy, Emerald Girl: Stories

Gold Boy, Emerald Girl: Stories

  • 作者:Li, Yiyun
  • 発売日: 2011/09/27
  • メディア: ペーパーバック
[☆☆☆★★★] 現代中国の市井の人びとの哀歓を静かな筆致で描いた好短編集。主人公は中年から年配の男女がほとんどで、とうに両親や片親を亡くしたり、ずっと独身だったり子供がいなかったり、配偶者と離婚・死別したりと、いずれも長年、なんらかのかたちで孤独を胸に秘めている。そんな人間の心の葛藤、苦悩と悲哀が、どの物語からも少しずつにじみ出てきて、じつに味わいぶかい。悲しみが喜びに変わる瞬間にも、当然ながら哀感がただよい、親子や夫婦・男女の愛、忘れえぬ人々への思いなど、いずれも感情が静かに凝縮されているだけに、かえってその激しさも伝わってくる。女が若いころ親切にしてくれた、近所の老婦人と人民解放軍の女性教官の思い出を通じて、亡き養父母同士の秘めた親切に思いをはせる第1話と、父親のいない中年男と母親のいない中年女が見合いをする表題作が出色の出来だが、全篇にわたり、庶民の平凡な日常生活にも、それぞれの人生を象徴する一瞬があることを、あらためて知らされる秀作である。