ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"The Mirror & The Light" 雑感

 先月アマゾンUKで注文したブルーレイ盤 "Ivan's Childhood" が、到着予定日を2週間も過ぎたというのにまだ届かない。On the way, but running late とのことだが、これも新型コロナウイルスの感染拡大の影響だろうか。
 一方、ほぼ同時に頼んだ Hilary Mantel の最新作、"The Mirror & the Light"(2020)のほうはぶじ到着。既報のとおり Wolf Hall Trilogy の最終巻で、Mantel 3度目のブッカー賞受賞なるか、と気の早い現地ファンのあいだでは刊行(3月5日)前から話題になっていた。
 ぼくもいくらか期待して取りかかり、あと少しで読みおわるところ。評価は読みはじめたとき、☆☆☆★★くらいだったが、いまは★をひとつ減らしてもいいかなという気もしている。幕切れの出来次第だが、いずれにしろ、第2作 "Bring up the Bodies"(2012 ☆☆☆★★)から8年も経過して発表されたわりには肩すかしの感あり。
 ただし、今年の女性小説賞のロングリストにノミネートされ、下馬評では同賞レースの最有力候補のひとつのようだ。本書と先頭争いを演じているのが去年のブッカー賞受賞作のひとつ、"Girl, Woman, Other"(2019 ☆☆☆★★★)。同書のほうが新味があるぶんだけ有利かもしれない。
 さて、上に「肩すかし」と書いたが、それは三部作を最初から読んだ場合の話であって、本書が初めてという読者、それも歴史小説ファンならけっこう楽しめるかもしれない。読んでいくうちに、前作、前々作でどんな出来事があったか、だいたいわかるようになっている。とはいえ、例によって登場人物が非常に多いので、背景知識がないと人物関係も頭に入りにくいだろう。
 巻頭に登場人物一覧とテューダー朝家系図も載っているが、それを何度も見るのは面倒くさいというとき役に立つのが、森護著『英国王室史話』。 

英国王室史話〈上〉 (中公文庫)

英国王室史話〈上〉 (中公文庫)

  • 作者:森 護
  • 発売日: 2000/03/01
  • メディア: 文庫
 

 

英国王室史話〈下〉 (中公文庫)

英国王室史話〈下〉 (中公文庫)

  • 作者:森 護
  • 発売日: 2000/03/01
  • メディア: 文庫
 

 ぼくも第1作 "Wolf Hall"(2009 ☆☆☆☆★)を読んだとき、ずいぶんお世話になったし、第2作でも何度か、今回も2度ばかり参照した。が、なまじ予備知識があるのも良しわるしで、ないほうが先の読めないサスペンスが生まれ、かえって面白いかもしれない。ただ、Mantel の腕さばき、歴史解釈、本書を読む意義など、いろいろなことを考えながら読むには、最低でも以下の知識が必要だろう。
 1509年、ヘンリー8世が即位し、亡き兄の妻だったキャサリンと結婚。ところが王子に恵まれず離婚。1533年、ヘンリー8世はキャサリン妃の侍女、アン・ブリーンと結婚。しかしアン妃は1536年、男子を流産したのち、密通のかどで処刑。今回の "The Mirror & the Light" はその処刑直後から始まり、キャサリン妃とアン妃に仕えた女官、ジェイン・シーモアが3番目の王妃となる。
 ヘンリー8世が何度も結婚するうち、まず重用されたのが大法官トマス・ウールジ。王に異を唱えたのが、ウールジの失脚後に大法官となったトマス・モア。全巻の主人公は、鍛冶屋の息子ながらウールジの庇護を受け、やがて宮内長官に出世したトマス・クロムウェル清教徒革命で有名なクロムウェルは、トマスの妹の玄孫だそうなので、お間違いなく。さて、トマスの運命やいかに。