相変わらず超多忙、もっか休日返上で仕事に励んでいる。そこできょうは、いささか旧聞に属するが、先日発表された今年のコスタ賞のショートリストでお茶を濁しておこう。
最優秀長編賞と最優秀新人賞の候補作家8人のうち、例によって不勉強で、知っているのは Hilary Mantel と James Meek の2人だけ。Mantel の作品はご存じ今年のブッカー賞受賞作でもあるが、おそらくダブル受賞はないだろう。Meek については、2005年のブッカー賞ロングリストに入選した旧作のレビューをついでに再録しておきます。点数はきょうつけました。
〈最優秀長編賞〉
[☆☆☆★★]『ウルフ・ホール』三部作の第二作。今回の柱は、ヘンリー8世の新王妃アン・ブリーンが男子の世継ぎを産めず、処刑されるというおなじみの大事件。前作同様、宮内長官トマス・
クロムウェルの立場から綴ったもので、前王妃キャ
サリンの他界、アンの流産、ヘンリーと女官ジェイン・
シーモアの密通と、なんのケレンもなく史実どおりに進む。間然とするところのない構成で緻密な描写も健在だが、前作とちがって裏話、楽屋話の楽しさが影をひそめたのは残念。途中の山場も少ない。
クロムウェルは相変わらず冷静な観察力と交渉術にたけ、カネを武器に各要人のあいだを自在に動きまわり、身勝手な国王の願望実現のために尽力する。が、そのしたたかな現実主義のおもしろさは二番煎じの感を否めず、また、トマス・モアの理想主義という対立軸をうしなったぶん、作品全体に深みが欠ける結果ともなっている。とはいえ、
クロムウェルがアンの「愛人たち」を尋問するあたりから大いに盛りあがり、アンの処刑場面はもちろんリアルで凄惨。新味としては、本書が
クロムウェルの庇護者トマス・ウールジを失脚に導いた張本人たちへの復讐劇となっている点だろうか。
クロムウェル自身の最期を予感させるくだりもあるが、国王に翻弄される現実主義者のはかなさは次作のお楽しみ。佳篇だが結局、三部作のつなぎでしかない憾みがある。(5月23日)
[☆☆☆★] 題名に魅せられ、血湧き肉躍る歴史ロマン小説を期待して読みはじめたのだが、たしかにサスペンスに満ちた場面が多く、水準には達していると思うものの、いまひとつ乗れなかった。時代背景は
ロシア革命動乱期。過去に何度も採りあげられてきた題材だけに、え、ホンマかいな? と思わせるようなユニークな設定が望まれるところだが、その点、本書は少々パンチ不足。目新しいのは、舞台が首都近辺ではなくシベリアの田舎町で、「愛の行為」と称して、方やみずから「去勢」をほどこした宗教集団、方や
カニバリズムを実践する青年革命家が登場することくらいか。著者のあと書きによれば、ロシアでは去勢も
カニバリズムも史実らしいが、うまく編集すればもっと面白い作品に仕上がったような気がする。英語は準一級程度で、電車の中で読むのにちょうどいいだろう。
〈最優秀新人賞〉