ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Toni Morrison の “Home” (2)

 トニ・モリスンのこともぼくは不勉強で、彼女の作品を読むのは本書でたったの3冊目。ご存じ "Beloved" の内容はほとんど記憶にない。2年前に読んだ "A Mercy" さえウロ憶えだったので、このブログの記事を確認したところ、「これを読んだからといって処方箋が得られるわけではないが、少なくとも生きる勇気がわいてくる。感服しました」と結んでいた。その好印象だけは何となくのこっている。そこで先月、本書が米アマゾンの月間優秀作品に選ばれているのを見かけてさっそく注文し、このほどようやく読了した次第である。
 そんな不勉強の身で感想を述べるのはまさに身の程知らずだが、相変わらずうまいなあ、というのが第一印象だ。冒頭、黒人の兄妹が幼いころ、ジョージア州の田舎の農場である事件を目撃する。そのあと2人の痛ましい体験がヴェールをはぐように少しずつ明らかにされ、中盤でやっと全体が見渡せるようになる。さらに意外な出来ごとがあり、傷ついた2人が最後、長い年月を経てふたたび農場へ出かけ、「昔の事件に終止符を打つ」。それが「トラウマを超え、決意新たに生きようとする兄妹の姿」をよく示している。たぶん今度も、「これを読んだからといって処方箋が得られるわけではないが、少なくとも生きる勇気がわいてくる」だろう。ひょっとしたら、その点にトニ・モリスン作品の本質があるのかもしれない。
 "A Mercy" のほうがいっそうぼくの心にはしみたので、それと比較して点数は辛めになってしまったが、本書の深い味わいも捨てがたい。読んでおいていい作品です。