ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Toni Morrison の “Home” (1)

 ノーベル賞作家トニ・モリスンの最新作、"Home" を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★] 巨匠がたしかな計算のもと、さらりと書いたノヴェラ。舞台はジョージア州の田舎町で、固い愛情で結ばれた黒人の兄妹が主人公。兄の独白と兄妹ふたりの客観描写が交錯するうち、それぞれの過去の痛ましい体験がしだいに明らかになる。朝鮮戦争で戦友の死と直面し、みずから恥ずべき行為に走った兄フランク。そのフランクのほかにだれも頼る相手がなく、他人の意のままに生きて身体をこわしてしまった妹シー。そんなふたりがひさしぶりに再会し、故郷で昔の事件に終止符を打つ。戦争や人種差別の現実を反映した各場面に強烈な感情が静かにこめられ、それが時に激しくほとばしる、という静と動のコントラストがみごと。トラウマを超え、決意新たに生きようとする兄妹の姿も感動的だ。凝った叙述形式の旧作とくらべると物足りないが、ひと筆書きのような至芸を楽しめる小品である。