ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Fyodor Dostevsky の “The Eternal Husband and Other Stories” (2)

 いやはや、疲れました! 連休(土曜日は出勤だったので2連休)がなかったら、とても読みきれなかったのではないか。これほど頭を使ったのは、3月に読んだトルストイの英訳短編集以来だ。こんな感想を述べても無意味だが、トルストイドストエフスキー、やっぱり文学の巨人ですな。現代作家とはモノがちがう。
 本書を手に取ったきっかけは、春にトルストイを読んだから夏はぜひドストエフスキーを、と思ったからだ。今年ひさしぶりに再開した〈世界文学の夏〉シリーズの一環である。で、先月末に帰省したときぜんぶ読みおえる予定を立てたのだが、第1話だけで精いっぱい。田舎に帰ったら頭がボケボケになり、とても無理だった。いくらドストエフスキーでも短編集ならあっさり読めるだろうと思ったのが大間違い。いざ取り組んでみると、いろいろ考えさせられる問題があり、これはやはり、ちゃんと机に向かって真剣に格闘すべき作品である。それだけの内容をふくんでいる。
 読み疲れ、レビューの書き疲れ(あんな駄文でも、じつはかなり時間がかかっているのです)、おまけに仕事疲れで今日は頭が働かない。最後の話 "The Dream of a Ridiculous Man" についてだけ補足しよう。
 これ、たしか大昔、邦訳で読んだことがあるような気がする。が、内容はすっかり忘れていた。この世はおよそ無意味と考えた男が自殺を決意する。それゆえ、幼い少女に何やら必死に助けを求められても取りあわない。そのあと男は奇妙な夢を見る。
 ぼくはその夢の話を読みながら、え、ドストエフスキーにも楽園志向、というとたぶん的はずれだろうが、それに近い願望があったのか、とビックリした。楽園願望が毛ほどもなかったら、ああいう世界は想像もつかないでしょう。しかし、そんなおめでたい話で終わるわけがない、と思っていたら案の定、楽園からの失墜がはじまった。ここに流血の近代史が要約されている。血が流れるゆえんはこうだ。'....we have science, and through it we shall again find the truth, but we shall now accept it consciously, knowledge is higher than feelings, the consciousness of life is higher than life. Science will give us wisdom, wisdom will discover laws, and knowledge of the laws of happiness is higher than happiness.' (p.315)
 この考え方は、『地下生活者』に出てくる〈二二が四は死のはじまり〉という有名な言葉を想起させ、じつに興味ぶかい。幕切れでも、' "The consciousness of life is higher than life, the knowledge of the laws of happiness is higher than happiness."―that is what must be fought!' とくりかえされる (p.319)。昔はたぶん読み流していたくだりだろう。こんな卓見や洞察をひろってみるのもドストエフスキーを読む楽しみのひとつです。
 それにしても、"The Eternal Husband" のラストシーンはほんとに鮮やかだ。もし高校時代に挫折せず、最後まで読んでいたとして、あのよさがわかったのかな。そう思うと、年を取った甲斐があるというものです。