ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Dostoevsky の “The Eternal Husband and Other Stories” (1)

 Dostoevsky の英訳短編集 "The Eternal Husband and Other Stories" をやっと読みおえた。訳者はご存じ Richard Pevear & Larrisa Volokhonsky 夫妻である。さっそくレビューを書いておこう。(点数はあくまでも、お遊びです)。

[☆☆☆☆★] 月並みな感想だが、人間の心とは、いかに猛烈なドラマを生むものか、とあらためて驚嘆せざるをえない。愛と憎しみ、善と悪、理想と現実、生と死。どの作品の人物もたえず極端から極端へとゆれ動き、その葛藤がそっくりそのまま激しいドラマとなっている。同時にそれがしばしばドタバタ喜劇でもあり、さらにまた、第一話 "A Nasty Anecdote" のように、ドタバタを通じて人間性への深い洞察が示されるところがすごい。寝取られ亭主と間男の対決を描いた表題作は、あきれるほどうまい。両者の感情がみごとに凝縮され、それまでの大騒ぎの数々が一気によみがえる鮮やかな幕切れだ。しかもその対決が、同じひとりの人間の心中で魂と魂が激突した結果ともいえる点に感服。そうした〈魂の激突〉、せっぱ詰まった状況における心のドラマは、『作家の日記』が出典といわれる "The Meek One" や、最終話の "The Dream of a Ridiculous Man" でも展開されている。ともあれ、卓見や洞察をちりばめながら人間の諸相をコミカルに、また、生か死か、といった緊迫感をもって表現するところに、ドストエフスキーの天才たるゆえんがあるのではなかろうか。