ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Aharon Appelfeld の “Blooms of Darkness” (3)

 昨日、アンテナを設置しました。おもしろそうな本を探すとき、ぼくがたまに拾い読みしている海外のブログです。(Michiko Kakutani はべつだけど)。ちなみに、Alison Moore の "The Lighthouse" について、The Mookse and the Gripes さんが最新の記事で、'I would be very happy if this book won this year's Booker prize.' と書いている。ぼくも同意見!
 閑話休題。あちらの小説を読んでいると、べつに意図したわけではないが、わりと周期的にホロコーストものに出くわすことに気がつく。今年はこの "Blooms of Darkness" で3冊目だ。それゆえ不謹慎とは思いながらもつい、今回の新趣向は? という読み方になってしまう。
 で、探せば前例があるかもしれないが、本書で目新しいと思われるのは、売春婦と少年のふれあいを中心にすえたホロコーストの物語である点だろう。タイトルの "Blooms of Darkness" は売春婦たちを指しているとも考えられるが、ぼくは少々強引に、「暗い悲劇に直面しても光り輝く人間の心の美しさ」を象徴するものと解してみた。blooms と複数形になっているのも、2人だから、ま、いいでしょう。
 ただ、その美しさに胸を打たれたかというと、あいにくそうでもなかった。ひとつには、「閉鎖された空間の中で2人の心は次第に結びつき……彼らは絶望に耐えながら愛情をますます純化させる」という展開があまりにもミエミエだからだ。ちょっと読んだだけで、これはもうほかに考えようのないお話だとすぐにわかります。
 それから、「酒好きで感情の起伏は激しいが愛情豊かな売春婦」に代表されるように、いろいろな人物の造形がわりと類型的であることも引っかかる。ユダヤ人がみんな善人ぞろいのように描かれているのも同様で、こんなことを書くと罵詈讒謗を浴びそうだが、悲劇の犠牲者だからといって完全無欠の聖人君子になれるわけではない。これはむろんユダヤ人を中傷しているのではなく、そんな当たり前のことを言いたくなるほどキャラが類型的ですよ、という意味である。
 最後に、終盤ほど宗教色が強くなり、まったく異なる文化圏の読者としては、なるほど、そういうものですか、としか言いようがないのも減点材料。ただし、この種の小説を読むたびに思うことだが、昨今、まわりの海が波高しとはいえ、まだまだ平和ボケした極楽トンボだからこそ、「減点材料」などとノンビリ感想を述べられるわけだ。それだけは忘れないようにと自戒しつつ、やっぱり「今回の新趣向は?」という目で読んでしまった。