仕事の合間に本書をダラダラ読んでいるうちに、ブッカー賞のロングリストが発表されてしまった。きょうはまず、毎年おなじみ William Hill の odds を紹介しておこう。
6/1 Eleanor Catton "The Luminaries"
7/1 Jim Crace "Harvest", 7/1 Colm Tóibín "The Tetament of Mary"
8/1 Tash Aw "Five Star Billionaire", 8/1 Charlotte Mendelson "Almost English"
10/1 NoViolet Bulawayo "We Need New Names", 10/1 Jhumpa Lahiri "The Lowland"
12/1 Donal Ryan "The Spinning Heart"
14/1 Colum McCann "TransAtlantic", 14/1 Ruth Ozeki "A Tale for the Time Being"
16/1 Alison MacLeod "Unexploded"
20/1 Eve Harris "The Marrying of Chani Kaufman", 20/1 Richard House "The Kills"
これを見ると、Crace はともかく、Tóibín がなぜ2番人気なのかまったく理解できない。おそらく、有名作家だからということなんでしょうな。
例年、当落いずれにしても意外な顔ぶれであることが多いものだが、the Mookse and the Gripes Forum (アンテナに追加)では、Lahiri の入選に驚きの声が上がっているようだ。が、ぼくが何より驚いたのは、Adichie が落選してしまったことである。"Americanah" より "The Testamment of Mary" のほうがすぐれた作品だなんて、この世にはいろいろな見方をする人がいるものだ、としか言いようがない。だから文学はおもしろい、とも言えるんですけどね。
たしかに本書は「終盤、意外に平凡なメロドラマとな」り、とくに結末が弱い。そこが減点材料のひとつだが、それまでの重厚な内容を考えると★をひとつオマケしてもいいのでは、というのがぼくの結論である。
雑感でもふれたとおり、ぼくには予断が2つあった。つまり、旧作 "Half of a Yellow Sun" をしのぐ作品は Adichie の力量をもってしてもなかなか書けないのではないか。また、「タイトルから何となく racism を連想し、この古びたテーマでは傑作はもう生まれないのでは」、と思ったわけである。
結果的に、これが旧作よりいくぶん落ちることは否めない。"Half of ...." では、「人間の不完全性を見据えた悲劇的人間観」に立脚しながらも、「最終的な決断を個人の手にゆだねることによって人間への信頼を示している」点に深い感動を覚えたものだが、今回は残念ながらそういう感動は得られなかった。
だが、傑作とまでは言えないかもしれないが、racism という「文学的には古びたテーマを、みごとに現代的に処理している」点は大いに評価していいと思う。本書に出てくるブログ記事を読みながら、ぼくは何度もクスクス笑い、「なるほど、この手があったか、とまず感心した」。ユーモアあふれる作品は、はっきり言って大のゴヒイキです。