ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“If on a Winter's Night a Traveler” 雑感 (1)

 このところ旧作探訪シリーズがつづいたので、そろそろ新刊が読みたくなったが、何冊か注文している本がまだ手元に届かない。しかたなく、Italo Calvino の "If on a Winter's Night a Traveler" (1979) を英訳版 (1981) で読みはじめた。
 Calvino の作品は、恥ずかしながら、いままで "Invisible Cities" しか読んだことがない。それもかなり昔の話で、内容はほとんど憶えていない。ただ、薄いわりに、けっこうむずかしかったような気がする。
 "If on a Winter's Night a Traveler" を書棚から引っぱりだしたのは、最近、映画『クラウド・アトラス』が公開されたことと関係がある。David Mitchell の原作は、これまた恥ずかしながら未読だが、そんなぼくでも、同書が Calvino の "If on a ... " に inspire された作品であることくらいは知っている。念のためガーディアン紙を検索してみると、2004年5月22日付で "If on a ... " について論じた Mitchell 自身のエッセイが載っていた。http://www.guardian.co.uk/books/2004/may/22/fiction.italocalvino?INTCMP=SRCH
 中身までは読んでいないが、マクラの紹介記事によると、'David Mitchell can see why his younger self was enthralled by Italo Calvino's meditation on writing, If on a winter's night a traveller' なのだそうだ。
 ともあれ、"Cloud Atlas" の前に Calvino を、と思って着手したのだが、これ、けっこうむずかしいですな。が、冒頭はなかなか魅力的だ。'You are about to begin reading Calvino's new novel, If on a winter's night a traveler. Relax. Concentrate. Dispel every other thought. Let the world around you fade. Best to close the door; the TV is always on in the next room. Tell the others right away, "No, I don't want to watch TV!" Raise your voice―they won't hear you otherwise―"I'm reading! I don't want to be disturbed!" Maybe they haven't heard you, with all that racket; speak louder, yell: "I'm beginning to read Italo Calvino's new novel!" (p.3)
 有名な作品なので、こんな引用をすることにどれだけ意味があるのかは疑問だが、中には未読の方もいるはずだ。とにかく、読者を作品の世界に引きこもうとする努力が冒頭から見てとれる。さらに言えば、このあと、読む行為を書く行為と一致させ、現実とフィクションを混淆させようという試みがどんどん続くことになる。たんに奇をてらったものとも思えない。本書の問題点のひとつでしょうな。