ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2021年ピューリツァー賞発表 Lydia Millet の “A Children's Bible”(2)

 あああ、先日の国際ブッカー賞につづいて、ピューリツァー賞も予想が外れてしまった。といっても、本気で当てようと思っていたわけではなく、P Prize.com のランキングで上位の作品を4冊読んだだけ。 

 そのなかで、いちおう "Deacon King" に期待していたのだけど、なんとランキング11位、Louise Erdrich の "The Night Watchman"(2020)が受賞とは。  

  むろん、なかには予想が的中した現地ファンもいて、First time I've picked the winner! Louise Erdrich is an excellent choice. Was very surprised by the finalists. とのこと。最終候補作は2作ともランキング外だった。 

 

 ともあれ、Louise Erdrich といえば、2016年の全米批評家協会賞受賞作 "LaRose" がまだ未読だというのに、これでまた積ん読の山が高くなってしまった。いずれペイパーバックを入手したら片づけることにしよう。なお、Erdrich の既読の旧作は以下のとおり。  

  

 閑話休題。Lydia Millet の "A Children's Bible"(2020)はひょっとしたら、アメリカでコロナを(ちらっと)扱った最初の小説かもしれない。"Trouble's coming," said Burl. / The way he said it, somehow, it sounded real. It sounded like he knew something. .... "Maybe it's a plague," said Jack. / "A Plague?" asked Dee, and stopped rubbing sanitizer on herself. "Bacterial? Viral? What plague?"(p.86)この話をしている子どもたちの親は実際、つぎつぎと病に倒れる。"Sick how?" I asked. / "Fever and chills. Headaches."/ .... ".... it could be a plague," said Dee.(p.103)
 関係がありそうな箇所はこれくらいで、メインの話題ではない。が、終末の世界を構成する要素のひとつであることは明らかで、上のような言及なら、刊行直前に急遽、書き加えることができたかもしれない。あ、これ、"Deacon King" についても同じような話をしましたね。
 ともあれ、タイトルどおり本書の主役は子どもたち。「子どもに無関心な親たちと希薄な関係にあり、ハリケーンの襲来をきっかけに独力でサバイバルをしいられる」。といっても、親以外の大人の援助を仰ぐ場面もあり、子どもたちだけで完全に独立しているわけではない。しかし親たちは終盤、ますます希薄な存在となって退場。その後、終末の世界に希望の光が射しているような記述もあるけれど、具体的にはっきり書かれているわけではない。なんだかあやふやな幕切れで、読後かれこれ1ヵ月たったいま、こうして落ち穂拾いをしているうちに、ああそんな話だったな、と記憶がよみがえってきたくらい。 

 ぼくには凡作としか思えないが、それでも去年の全米図書賞最終候補作で、ニューヨーク・タイムズ紙選年間ベスト5小説のひとつ。P Prize. com の予想でも「候補作」第3位だった。今回栄冠に輝いた "The Night Watchman" が傑作であることを祈るばかりだ。