ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jim Lynch の “Truth Like the Sun” (2)

 今週末はめずらしく仕事をしなかったが、近々、11年ぶりに愛媛の宇和島から母がやって来るので、庭の草取りや家の中の掃除に精を出した。昨年他界した父も、ぼくやぼくの子供たちが帰省するたびに大掃除をしていたのではないだろうか。
 閑話休題。超多忙中のほかにも、本書に「イマイチ乗れない理由がある」と雑感に書いたが、その理由はおとといのレビューらしきものにまとめておいた。ひとことで言うと、「当初から火を見るより明らかな」展開だからだ。それでは読んでも読まなくてもおなじだろう。だったら、このクソ忙しいのに……というわけである。
 タイトルは、レビューでも紹介した 'Truth is like the sun, isn't it? You can shut it out for a time, but it ain't going away.' (p148) というプレスリーの言葉から来ている。ただし、実際にプレスリーがそんなことを言ったかどうかは不明。ぼくはアマノジャクのせいか、この言葉にも疑問をいだいた。真実は藪の中、ということもあるのじゃないかしらん。
 オーウェルの引用もある。'In a time of universal deceit, telling the truth is a revolutionary act.' (p.199) ネットで調べると、どうやら "1984" が出典のようだ。同書は学生時代に読んだきりなので、ほんとうかどうかは自信がないが、いかにもオーウェルが言いそうなことだ。けれども、本書の中で接するとあまりにも唐突で、ほかの内容と違和感がありすぎる。市長選挙の立候補者の黒い過去をあばくことが 'revolutionary act' だとは誰も思わないだろう。
 立候補者と女性記者によって、おなじひとつの事実がべつの意味をもつ場合もある。ただし、それが情緒的な扱いなのがぼくには不満だった。
 「われわれが見る正義や不正などで、気候が変わるにつれてその性質が変わらないようなものは、何もない。緯度の三度のちがいが、すべての法律をくつがえし、子午線一つが真理を決定する。(中略)川一つで仕切られる滑稽な正義よ。ピレネー山脈のこちら側での真理が、あちら側では誤謬である」。
 パスカルの『パンセ』の一節だが(前田陽一・由木康訳)、ここでこんな言葉を引き合いに出すのは、まさに「牛刀をもって鶏を割く」と思いつつ、やっぱり言及せずにはいられない。根本的な問題をかすめるだけの小説は、ぼくには眠くて仕方がない。……あ、このブログも似たり寄ったりですな。