ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jim Lynch の “Truth Like the Sun” (1)

 Jim Lynch の "Truth Like the Sun" を読了。ニューヨーク・タイムズ紙の書評家、Janet Maslin が選んだ昨年の10 favorite books の一冊である。さっそくレビューを書いておこう。

Truth Like the Sun

Truth Like the Sun

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[☆☆☆★]「真実は太陽のようなもので、いっときは隠せても、けっして消え去ることはない」。書中に登場するプレスリーの (!) ことばだが、これは本書のテーマでもある。1962年、21世紀の世界をテーマにシアトルで開催され、大成功をおさめた万国博覧会の総責任者モーガンが半世紀後、同市の市長選挙に立候補。シアトル発展のため大いに貢献したモーガンの実像に、地元紙の女性記者ヘレンが敏腕ぶりを発揮して迫っていく。ふたりの火花を散らすような、それでいて情感あふれる対決がハイライトだが、編集会議の迷走ぶりが笑える。人類の平和と幸福を謳った万博の終了時にキューバ危機が発生。一方、取材によって真実が明るみに出されるや、万博のシンボルタワーだったスペース・ニードルが闇の象徴に思えてくる。この過去と現在のコントラストが鮮やかだ。とはいえ、立候補者が選挙民の前で見せる魅力的な姿が虚像にすぎないことは世間の常識で、いかなる黒い真実が暴露されようとも驚くに値しない。大山鳴動して鼠一匹になるものと当初からミエミエなのが最大の難点だ。真実には二面性があり、ひとつの真実も見方しだいで意味が変わる。これまた一般常識だが、この点をもっと前面に出せば、読後の余韻もさらに深まったのではないだろうか。