ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Five Star Billionaire” 雑感

 きょうは暑かった! おでこに冷えピタを貼り、首筋や脇の下には保冷パック。そこまでやるのにはわけがある。わが家にはエアコンがないからだ。扇風機もあるが使わない。人力扇風機、つまり、うちわをパタパタやりながら、上のかっこうで何とかしのいでいる。
 閑話休題。きのう、うっかり書き忘れたことがある。ジンバブエ出身の作家の作品を読んだのは "We Need New Names" が初めてかと思ったら、読書記録を調べてみると、2009年のガーディアン新人賞(The Guardian First Book Award)受賞作、Petina Gappah の "An Elegy for Easterly" を読んでいたことがわかった。当時のレビューを再録しておこう。

An Elegy for Easterly

An Elegy for Easterly

  • 作者:Gappah, Petina
  • 発売日: 2009/12/03
  • メディア: ペーパーバック
[☆☆☆★★★] ジンバブエ各地を舞台にしたエスニック色豊かな短編集だが、同時に、どこの国の現代人にも当てはまる普遍性をも兼ねそなえた点が秀逸。民族色としては、独立戦争からムガベ大統領政権下の現在にいたるジンバブエの歴史もふくまれ、極端なインフレや貧困、人権抑圧、権力者の欺瞞と腐敗、部族差別などへの風刺が鋭い。そこには「心の奥でしか真実を語れぬ」人々の悲痛な叫びも聞こえる。表題作は、ある歴史的事件に巻きこまれた女性の悲惨な運命を描いて凄絶。一方、上記の政治的・社会的矛盾を背景としながら、夫婦や兄妹、親戚同士などの対立と和解、すれ違い、さらには、個人の夢が消えたときの絶望感といった人生模様が、厳しい現実とは裏腹にコミカルかつ力強いタッチで綴られる。ネット詐欺のように、思いのほか現代的な設定の話も多い。締めくくりはなんと、〈ホテル・カリファルニア〉でコンドームを盗まれる笑い話。これひとつとっても作家としての心意気、タフな精神を感じさせる現代の悲喜劇集である。
 内容はすっかり忘れていたが、ホテル・カリフォルニアのくだりでパッと思い出した。出来は "We Need New Names" よりいいのではないかしらん。
 さて、きょうは猛暑のなか、今年のブッカー賞候補作、Tash Aw の "Five Star Billionaire" をボチボチ読んでいた。説明ぬきで引用しよう。
From his window he could see the Pudong skyline, the skyscrapers of Lujiazui ranged like razor-sharp Alpine peaks against the night sky. In the daytime, even the most famous buildings seemed irrelevant, obscured by the perpetual haze of pollution; but at night, when the yellow-gray fog thinned, Justin would sit at his window watching them display boastfully, each one trying to outdo the next; taller, louder, brighter. A crystal outcrop suspended high in the sky, shrouded by mist on rainy days; a giant goldfish wriggling across the face of a building; interlocking geometric shapes shattering into a million fragments before regrouping. He knew every one by heart. (p.18)
 上海の夜景である。なかなかうまいですな。ちょうど一週間前のいまごろは、恵比寿ガーデンプレイスタワーの高層階にある居酒屋で、夜景をながめながら一杯やっていた。あれからぼくは何をしていたのだろう。