ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Report from the Interior” 雑感 (1)

 予土線・務田(むでん)駅について書いたおとといの雑文に、「昔はもちろん、写真右手の屋根やベンチなどなく、闇の中に電球の明かりがぼんやりともっているだけだった」という一文を追加。これで写真とあわせ、少しは当時の光景が目に浮かぶのではないだろうか。
 さて、いつまでも Sebald の、"The Rings of Saturn" の世界にどっぷりつかっていたいところだが、気分一新。きょうから Paul Auster の新作 "Report from the Interior" に取りかかった。Auster は読み残している旧作も気になるものの、新作につい手が伸びる作家のひとりである。
 読みはじめてすぐに気がついたのだが、これはどうやら小説ではなさそうだ。改めてタイトルを見ると "Report from the Interior"。なるほど、そういうことですか。ひょっとしたらこれは、去年の "Winter Journal" の続編かもしれない。ジャケットも色がちがうだけでデザインは同じ。あちらが青本なら、こちらは赤本である。
 「続編かもしれない」と書いたが、じつは "Winter Journal" の内容はすっかり失念していた。去年のレビューを読みかえし、そうそう、そんな話だったっけと思い出した。

Winter Journal

Winter Journal

[☆☆☆★★★] 2011年1月から、冬のさなかにポール・オースターが書き綴った自伝。年代順ではなく、フラッシュをたいたように浮かびあがる過去の断片をテーマ別にまとめたもので、その構成はすこぶる小説的と言ってよい。自分を you と2人称で呼ぶことが端的に示すとおり、おのれをつとめて冷静に客観視し、自己の内面を理知的に検証。美醜とりまぜ悲喜こもごも、ありのままの自分を正直に観察・回想した魂の記録である。ノスタルジックな感傷はみじんもない。むろん生きた感情は流れているのだが、それがみごとに抑制されているだけに〈静かな熱気〉が伝わってくる。その熱気にあおられながら、喧嘩や恋愛、結婚、肉親の死、貧しい生活といった日常風景に接して読者も似たような体験を思い出し、それぞれの風景に刻まれた魂の記録にふれることでわが心を見つめなおすはずだ。また内面だけでなく、手の動きや飲食物などフィジカルな側面にも観察がおよんでいる点がいかにも小説家らしく、聴覚的な刺激から創作意欲を駆りたてられたというエピソードなど、創作の秘密の一端をかいま見るようで興味深い。ともあれオースター64歳。今や「人生の冬を迎えた」作家にふさわしい人生の総括である。英語は標準的で読みやすいが、力のこもった知的な文体で歯ごたえがある。
 ……けっこうホメているが、いい加減なものですな。
 とにかく、この "Report from the Interior" も一種の自伝である。January 3, 2012, exactly one year to the day after you started composing your last book, your now-finished winter journal. It was one thing to write about your body, to catalogue the manifold knocks and pleasures experienced by your physical self, but exploring your mind as you remember it from your childhood will no doubt be a more difficult task―perhaps an impossible one. Still, you feel compelled to give it a try. (p.4)
 え、"Winter Journal" は 'to write about your body, to catalogue the manifold knocks and pleasures experienced by your physical self' というねらいの作品だったのか。あれも十分 ' exploring your mind' するものだったのでは、と上のレビューを読んで想像するのだが、それはさておき、本書はいまのところ、たしかに "Report from the Interior" である。あれれ、作風は異なるものの、Auster は Sebald と同じ路線の作家だったのか。