ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Barbara Kingsolver の “The Poisonwood Bible” (2)

 え、今ごろ "Poisonwood Bible" かい? 遅れすぎ! という声が聞こえてきそうだ。じつは本書も長年の宿題だった。ちょうど10年前、現代文学に少しずつ興味を覚え、と同時にレビューらしきものを某通販会社の商品紹介ページに投稿しはじめたころ(その後すべて削除し本ブログに移行)、あちらの本社?のほうをサーフィンしているうちに、たまたま Barbara Kingsolver のことを知った。すごい名前だな、と思った記憶がある。
 さらに調べたところ、当時は本書が彼女のいちばんの代表作であることがわかった。(今は "Flight Behaviour" [☆☆☆★★] かもしれない)。で、さっそく取りかかったのだが途中でひと休み。理由はあまり憶えていないが、ノリノリでなかったことだけは確かだ。
 そのあと今度は "Prodigal Summer" (2000) を試読。こちらはのっけから完全にノックアウトされ、そのまま一気呵成に読んでしまった。ぼくが現代文学にのめり込むきっかけになった一冊と言えるだろう。
 そこまではいいのだが、余計なことにぼくは同書のレビューで、「キングソルヴァーの代表作はもちろん『ポイズンウッド・バイブル』だ」と、まだ読みおえてもいない本書に言及してしまった。知ったかぶりというやつですな。
 それからいつかフォローしようと思いつつ、なんと10年が経過。われながら呆れてものが言えません。ともあれ、問題の "Prodigal Summer" のレビューを再録しておこう。その後、邦訳が出たかどうかは未検索。

Prodigal Summer: A Novel

Prodigal Summer: A Novel

[☆☆☆☆★] 古来、西欧人にとって自然は征服の対象だった。むろん、文学の世界では早くから自然描写を得意とする作家が何人も現れたが、一般的には長らく文明と自然の対立という図式に大きな変化はなかったように思う。ところが1962年、レイチェル・カーソンが『沈黙の春』を発表。以来、環境保護運動が世界的に広がったのは周知の事実だ。それからほぼ40年後に登場した本書は、エコロジーの問題を採りあげ、自然を人間にとって共存の対象としてとらえた本格的な小説として文学史に残る傑作である。生硬な主義主張はみじんもない。アパラチアの山中と農場で暮らす人々を中心に、人生の有為転変、悲喜こもごもが説得力ある筆致で描かれ、家族とは、夫婦とは、隣人とは、恋愛とは…という問いが常に発される一方、そういう人間の営みと並行する形で、動植物をはじめとする自然の営みが愛情をこめて詩情豊かに謳いあげられる。さまざまな対立や誤解もあれば、激しい情熱や心温まる交流もある人々の動き。単なる背景では決してなく、あくまでも人間生活に密着した草花や虫、鳥や動物の生活。そして人は自然の移ろいを見て、おのが人生を顧みる。以上のような文脈の中で生態系のもつ意味が語られるのだ。名作のゆえんである。ところが、現時点ではまだ邦訳は刊行されていない。キングソルヴァーの代表作はもちろん『ポイズンウッド・バイブル』だが、次作の本書も早く日本の一般読者に紹介して欲しいものだ。英語は難易度の高い口語表現が散見されるし、馴染みの薄い動植物等の固有名詞が頻出するものの、全体的にはそれほど難しくないと思う。
(写真は宇和島市来村(くのむら)川。堀部公園から10分ほどさかのぼった辺り)。