ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Barbara Kingsolver の “The Poisonwood Bible” (1)

 A. S. Byatt の "Possession" のあら探しをしているうちに、数多くの美点について書く時間がなくなってしまった。が、いちおうレビューで意は尽くしていると思う。あれ以上書いても、屋上屋を架すことになろう。
 話変わって、Barbara Kingsolver の "The Poisonwood Bible" (1998) を読了。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆☆] 聖書は西洋キリスト教社会では絶対善の源だが、異文化に導入されたとき、それははたしてそのまま絶対善たりうるのか。このいわば「宗教的カルチャーショック」の問題はそれ自体、けっして目新しいものではない。が、そのショックを四人(途中から三人)姉妹と母親の視点でとらえ、長い年月にわたる大河小説に仕立てあげた技量は驚異的。中盤すぎまでは、コンゴ奥地の村に移住したアメリカ人宣教師一家の苦難の物語で、視点の変化にともなう多彩な話術がすばらしく、白人と現地人、キリスト教と土着信仰の対立という定番のテーマをよく支えている。シリアスな話題とコメディ・タッチ、コンゴ動乱などおとなの世界の政治情勢と子どもの目、のどかな風景や心温まるふれあいと、突然襲ってくる悲劇。いずれもコントラストが鮮やかで緩急自在、至芸の連続である。姉妹がひとり減ってからは、母ともども三者三様、それぞれの悪戦苦闘ぶりが自在に描きわけられ、その間隙を縫って「善の強制は悪」という上のカルチャーショックの本質が示される。古典的なテーマだが、強制する側に起きた悲劇が中心である点と、強制されるのが自然豊かなアフリカの国の人びととあって、エコロジーの観点も認められるのが新味といえよう。やがて時間の流れが速まり、駆け足で大国アメリカのエゴも描かれるが、こちらはやや冗長。緊張が次第に高まり、一気に沸点に達した中盤までとくらべ、インパクトに欠けテーマの平凡さが目だつ。とはいえ、これほど重厚な作品は、そうめったにあるものではない。文学界の重鎮にふさわしい代表作である。