Elena Ferrante の "The Story of the Lost Child" を読んでいる。これはご存じのとおり、昨年、ニューヨーク・タイムズ紙やタイム誌、エコノミスト誌、パブリシャーズ・ウイーク誌などで年間ベストのひとつに選ばれた話題作である。
本書を読もうと思ったきっかけは、ずばり表紙。いわゆるジャケ買い、ぼく流に言うと〈見てくれ買い〉だ。
去年の9月、本ブログを再開して以来、ぼくにはじつはひとつの目標があった。退職が迫ってきたこの時期、そろそろ文学を勉強し直そうと思ったのだ。いまのうちにボケた頭を少し鍛えておけば、年金生活が始まっても一気にボケることはないのではないか。
そこで選んだ作家は、長年の宿題を果たすことも兼ねて、Hermann Hesse, Stendhal, Thomas Mann, Tolstoy。途中、部分的ながら、ニーチェや George Steiner の著作を復習する機会にも恵まれ、これはほんとうに勉強になった。
次に現代、といっても旧作の宿題を何冊か片づけた。Iris Murdoch, A. S. Byatt, Barbara Kingsolver, Alan Hollinghurst, Donna Tartt。若干の差はあるが、これまた勉強になることが多かった。
それからやっと、リアルタイムに近い現代の作品に取りかかった。そのテーマをふりかえると、不条理や人間の本質、人種差別、戦争など、いずれも重いものばかり。べつに意図したわけではなかったが、結果的に十分勉強になるものだった。
ここらでちょっと息抜きしたい。と思ったときにたまたま目についたのが、いかにも〈文芸エンタメ系〉らしい "The Story of the Lost Child" のカバー写真。天使のような羽をつけた女の子が二人、おだやかな海をながめている。いいですなあ。
〈文芸エンタテインメント〉とは、ひとことで言えば、軽い作品である。ミステリでもSFでもファンタジーでもない、いわゆる literary fiction。
このジャンルで検索すると、上にあげた作家の作品が出てくることもあるので、実際には軽重の線引きはむずかしい。Stendhal の "The Red and the Black" といったって、ありゃ不倫小説でしょうが、と言われると、はい、おっしゃるとおりです、と引き下がらざるをえない。
肩のこらない小説、でもいいが、知的昂奮をさほど覚えない小説、というのがいいかもしれない。ハラハラドキドキすることはあっても、人生の不条理とは何ぞや、などと考え込むことはあまりない小説である。いい加減な定義だが、そういう作品をぼくは〈文芸エンタテインメント〉と呼んでいる。
(写真は、宇和島市辰野川にかかる観音橋)