久しぶりに P Prize. Com をのぞいてみたら、本書が今年のピューリッツァー賞の最有力候補に挙げられていた。ふむふむ、これは今年の全米書評家協会賞受賞作でもある。ひょっとしたら二冠達成かも、と思って取りかかった。
期待はずれ。P Prize. Com の予想では泡沫候補に近かった "The Sympathizer" (未読) が栄冠に輝いてしまった。その報を知ったとたん、"The Sellout" を読むスピードががくっと落ちたのは、それだけノリノリではなかったからだろう。
これを読んでいるうちに思い出したのが Edward P. Jones の "The Known World"。あの名作はもう邦訳が出ているのだろうか。ぼくが読んだのは出版後3年たってからのことだったが、当時はまだ未訳のままだった。アメリカの黒人差別の問題を扱った小説は数多くあり、名作秀作もたくさんあるものの、それだけに最近、新作が日本に紹介されることは少なくなったような気がする。「売れない」という出版社の判断があるからだ(と推察する)。
"The Known World" でさえ今なお未訳であるとしたら、この "The Sellout" はなおさら日本では「売れない」だろう。とそう思いながら読んでいたのが「ノリノリではなかった」理由かもしれない。
アメリカの「実情に詳しい読者ほど楽しめるものと思う」とレビューに書いたが、これは裏を返せば、あまり詳しくないはずの日本の一般読者には取っつきにくいかもしれない、ということだ。何を隠そうぼく自身、ああ、たぶんそういうことなんだろうな、とあちらの現状を想像しながら読むしかなかった。
むろん普遍的な問題をはらんでいるという意味では、ぼくたち日本人が読んでもおもしろい部分がある。その点は次回にふれるとして、これがいかにもアメリカ的な小説であることは間違いない。それゆえ、これまた想像にすぎないが、「本書を読んでげらげら笑っているうちに、待てよ、と考えこんでしまったアメリカ人読者も多いのではないだろうか」。
以下、"The Known World" のレビューを再録しておこう。周知のとおり、"The Sellout" と同じく全米書評家協会賞の受賞作 (2003) である。
- 作者: Edward P. Jones
- 出版社/メーカー: Amistad
- 発売日: 2004/06/04
- メディア: ペーパーバック
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(写真は宇和島市辰野川。向こうに宇和島橋が見える)